水資源の取り組み
持続可能な水資源利用
水はキリングループにとって基本的な原料であるだけではなく、製造設備の洗浄などにも欠かせません。水ストレスの小さい日本と過去に何度も大きな渇水を経験しているオーストラリアに大きな事業を持っているキリングループは、早くから水リスク・水ストレスが国や地域によって異なることを理解してきました。2014年以降、科学的なツールを使って水リスク・水ストレスを定期的・定量的に把握し、各事業所の水ストレスに応じた効率的な水利用を行っています。原料農産物の生産地で水リスクについてもTCFD提言に基づくシナリオ分析で調査・把握し、実施可能な地域で試行的な対策も進めています。今後は、単に節水だけではなく流域全体の自然資本に及ぼす影響について把握するとともに、影響を低減できる目標設定に向けてステークホルダーとともに取り組む計画です。
主な活動
- スリランカの紅茶農園内で累計22か所(2023年末)の水源地を保全し、水源地の近隣の住民(約15,000人)対象に水の重要性や保全と流域保護に関するパンフレットを配布し意識向上に貢献
- Science Based Targets Networkが主催するコーポレートエンゲージメントプログラムに参加し、水資源に関する目標を設定するための科学的なアプローチの開発とルール作りに参画(2021年~)
- 水ストレスの非常に高いアメリカのコロラド州にあるニュー・ベルジャンにおいて、TNFDからの依頼でシナリオ分析ワークショップを実施(2023年:実施内容は、TNFDフレームワークβ版v0.4に掲載)
- 水源の森活動による生物多様性の保全や、地下水涵養などの取り組みを継続
目標
水ストレスの高い製造拠点における用水使用量原単位(ライオン)
2025年 2.4kl/kl未満(CSVコミットメント)※1
2025年 2.4kl/kl以下(非財務目標)※2
2024年 3.0kl/kl以下(非財務目標)※2
- 対象事業所は以下の通りです。 Tooheys Brewery,Castlemaine Perkins Brewery, James Boag Brewery, Pride
- 対象事業所は以下の通りです。 Tooheys Brewery,Castlemaine Perkins Brewery, James Boag Brewery
達成状況
実績
紅茶農園内の水源地保全活動
キリングループは、バリューチェーン上流の原料農産物生産地における水問題解決の第一歩として、スリランカの紅茶農園内にある水源地の保全活動を2018年から開始しました。2023年末で22カ所の保全を完了しています。水源地の近隣に住む1,750人に対して水源地保全の必要性を理解するための集合形式での研修を行い、加えて住民15,000人に水の保全と流域保護に関するパンフレットを配布して意識向上をはかっています。スリランカの高地にある紅茶農園では、急峻な斜面に茶の木が植えられている場所がたくさんあります。地層などの条件が良いところでは、雨水が地中に浸透して紅茶農園の一角で泉として湧き出ています。このような泉のことをマイクロ・ウォーターシェッドと呼びます。紅茶農園にあるマイクロ・ウォーターシェッドはスリランカ中心部の高地にあり、ほとんどの場合は沿岸部の都市に流れる河川の源流になっているため、面積はわずかですが貴重な水源地となっています。キリングループはスリランカ紅茶農園へのレインフォレスト・アライアンス認証取得支援の一環で、毎年農園マネージャーとエンゲージメントをしています。農園マネージャーとの対話の中で、水源地保全活動が停滞していることが分かりました。当時、スリランカ政府はマイクロ・ウォーターシェッドの重要性については理解し、それらを保全・管理するためのマッピング作業までは実施していました。そこで、認証取得支援先の紅茶農園と周辺地域の持続性をより高めるために、2018年からレインフォレスト・アライアンスと共に、スリランカ政府の外郭団体であるPHDT(Plantation Human Development Trust)とEWHCS(Estate Worker Housing Cooperative Societies)の協力のもと、農園内の水源地保全活動を開始しました。前回訪問した際(2024年3月)には、農園内にあるマイクロ・ウォーターシェッドへの動物の侵入を防ぎ、他の目的で使用されないようにするため、柵で囲む保全活動が進んでいるのを確認しました。今後は周囲に、その地域固有の在来種を植林する予定です。これにより、単一栽培の紅茶農園に植生の多様性を与えるとともに、集中豪雨などで山の斜面から流出した土砂が水源地に流れ込むことも防ぎます。
教育プログラムの提供
キリングループは、対象となる水源地周辺に住む住民に対して、水の大切さやマイクロ・ウォーターシェッドがどのような機能を持っているかなどを教える教育プログラムを提供しています。一部の農園では収穫作業従事者の保育所や小学校のプログラムの中に組み込むなどの工夫もしています。当初目標の15,000人への提供を達成し、さらに拡大する予定です。
水源の森活動
工場の水源地を守る活動である「水源の森活動」は、1999年に業界に先駆けてキリンビール横浜工場の水源地である神奈川県丹沢地区の森から始まり、現在も日本全国11カ所で取り組んでいます。水源地の森林を管理する自治体や関係先との中長期の協定をベースとして、植樹、下草刈りや枝打ち、間伐などを進め、現在では多くの森が明るく茂る森になってきています。一部の場所では、希望するお客様にも活動に参加していただいています。
地下水涵養
「『世界文化遺産』を目指す阿蘇エリア草原再生プロジェクト」では、阿蘇の草原景観保全に向けた「野焼き再開支援」を実施しています。豊富な地下水を涵養する阿蘇の広大な草原を守ることは、メルシャン八代工場の原料として使用する水を守ることにつながります。2023年は八代工場から3名がこの活動に参加しました。草原の維持は、地下水を育むと同時に絶滅危惧種を含む多様な動植物の生息場所を守ることにつながります。
製造
工場で使う水の多くは、設備や配管の洗浄・殺菌工程で使用されます。洗浄できていることを品質面で確認・保証できる体制・仕組みを整えるとともに、無駄な水を使わないように流量・流速を厳密に管理しています。その上で、用途に応じた水の再利用を積極的に推進しています。例えば、配管や設備などの洗浄工程で使った最後の「すすぎ水」は水の清澄度が比較的高いため、最初に配管を洗う工程で利用することが可能です。このように、洗浄で使った水を水質に応じた用途で繰り返し使うカスケード利用を行っています。回収できる水の量と使用する水の量のバランスやタイミングを合わせるなど、確実に洗浄できていることを保証するためには設備を使いこなすノウハウが必要です。キリングループでは、このようなノウハウを共有・蓄積し、高いレベルの節水を実現しています。
ライオンは水ストレスの非常に大きな醸造所所在地域の水利用を最小化するために、2009年にオーストラリアのクイーンズランド州政府と提携して排水を回収利用するための逆浸透(RO)プラントをCastlemaine Perkins Breweryに設置しました。ライオンは水のリサイクルプラントを導入し、醸造に使用する水の半減を目指しています。逆浸透膜で処理された水は洗浄、冷却、低温殺菌など、製品に関連しないプロセスで使用されます。
排水とバイオガス活用
キリングループでは、使い終わった水は法律が求める以上の自主基準を設定して浄化し、河川や下水道に放流しています。排水基準の厳しい流域の工場では嫌気処理、好気処理の後、加圧浮上処理を行いリンや固形分を除去しています。好気処理、加圧浮上処理で排出された余剰汚泥は肥料や土壌改良材に再利用します。キリングループは水生生物生態系へ配慮し、きれいな水を海洋や河川、下水道に放流しています。ビール工場では、製造工程から発生する排水を浄化するために嫌気処理設備を導入しています。嫌気処理では、従来の好気処理のように通気のための電力が不要となるだけではなく、嫌気性微生物による処理の過程で副生成物としてメタンを主成分とするバイオガスが発生するため、これをバイオガスボイラーや、コージェネレーションシステムなどに活用できます。バイオガスはモルトなど光合成によって大気中のCO₂を吸収して育った植物性原料由来であり、燃焼などによりCO₂が発生しても、大気中のCO₂の量は変わらないとされ、再生可能エネルギーに位置付けられています。
流域・海岸清掃活動
キリングループの各工場では、行政やNGOと協力して周辺の河川における清掃活動を中心とした環境保全活動を行っています。キリンビール、キリンビバレッジ、メルシャン、協和キリン、小岩井乳業などの各工場では、取水河川や近隣河川などを中心に、地域の環境美化および環境保全活動を行っています。協和発酵バイオ山口事業所では、従業員が薬液やブドウ糖液などを荷揚げする港湾施設である百間沖の清掃活動をしています。