シャトー・メルシャン椀子ヴィンヤードでオオルリシジミの幼虫の食草クララを増やすために、塩川小学校で苗を育てていきます。
- 環境
2022年09月15日
長野県上田市陣場台地にあるシャトー・メルシャンの自社管理畑である椀子ヴィンヤードに絶滅危惧種のオオルリシジミがやってくることを願って、生態系調査の共同研究を実施している国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以後、農研機構)の先生の指導のもとでクララを育てる活動を行っています。
環境省レッドリストで絶滅危惧ⅠA類(CR)、長野県のレッドリストで絶滅危惧ⅠB類(EN)のチョウであるオオルリシジミの幼虫の唯一の食草がクララです。椀子ヴィンヤードの畑の中や近くの水田のあぜに生育していますが、オオルリシジミが定着できるほどは多くありません。そこで、田のあぜに生えているクララの先端を所有者の許可を得て切り取り、挿し穂で増やそうというプログラムを実施しています。
2019年に国際NGOアースウォッチ・ジャパンとそのボランティアの皆さんと開始した当初は参考になる論文や事例が殆どなく、椀子ヴィンヤードに植えることができるまでに育てられたクララは限られていました。その後、挿し穂を取る時期や取った穂が根付くまでの育て方など、様々な工夫の結果、かなり安定的に育てることができるようになっています。
左:5月末のクララの挿し穂採り、中:5末に椀子ヴィンヤードに植え付け定着したクララ、右:塩川小学校
キリングループと上田市との包括連携協定に従って、2020年に陣場台地のふもとにある塩川小学校で環境教室を開催しました。クララを増やす活動について先生方にお話ししたところ、興味をもっていただき、塩川小学校もこの活動に参加することになりました。2021年に農研機構で育てた小さな苗を、当時の4年生の皆さんに校庭へ植え、1年間育ててもらいました。2022年の5月末には、5年生になった皆さんとともに、椀子ヴィンヤードに植え替えました。
2022年8月23日に、2回目となる活動を開始しました。
5年生の児童の皆さんが植え付けを行った翌日、田のあぜから新しいクララの挿し穂を取り、農研機構で小さな苗になるまで大切に育てていただきました。その苗を、今年の4年生の皆さんに校庭に植え付けてもらいました。今年は、上田市丸子地域自治センターの皆さんも苗作りをされていたので、その苗の一部も植え付けに使わせていただきました。
当日は、地元メディア6社が取材に来られ、教室の後ろにカメラマンがずらっと並びました。まずは環境教室。農研機構の先生から、椀子ヴィンヤードの草生栽培が希少種を育む理由を聞いた後は、バスで椀子ヴィンヤードへ移動。5年生の皆さんが5月に植えたクララが元気に育っている様子を観察。広大な椀子ヴィンヤードの畑の中で、教室で学んだことを実感していただきました。
バスで学校に戻ると、いよいよ小学校で苗の植え付け。農研機構の先生が実演した植え方をしっかりみていた児童の皆さんは、上手に苗の植え付けを行っていました。
クララは寒くなると一旦地表に見えている部分が枯れて、見えなくなってしまいます。しかし、土の中でしっかり栄養を蓄え、来年の春先には芽を出してくれるはず。そして、来年の5月に、みなさんと一緒に椀子ヴィンヤードに植え付けを行う予定です。クララを育てる活動は、アースウォッチ・ジャパンとそのボランティアの皆さんにも参加していただきます。
昨年から今年にかけて、中国の昆明およびカナダのモントリオールで、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)の議論が続いています。2010年に名古屋で開催された生物多様性条約締約国会議(COP10)で定められた愛知目標は、残念ながら殆どの目標が未達となっています。その結果を踏まえ、COP15では2030年までに自然の喪失がほぼ無い状態を目指し、2050年には自然の完全回復、すなわち「自然と共生する世界」を創出するというビジョン「ネイチャーポジティブ」が提唱されています。また、陸と海の30%以上を保全する「30by30」目標が、COP15の具体的な目標として検討されています。「30by30」では、国や自治体などの保護地域で足りない部分は民間の取り組みにより保全されている地域を加えて達成する予定です。
椀子ヴィンヤードは、遊休荒廃地を草生栽培のブドウ畑にすることで、昆虫や植物の多様性が豊かになり、レッドデータブックに載る希少種も見つかっています。椀子ヴィンヤードの場合はブドウ畑になった状態でしか調査できませんでしたが、山梨県天狗沢ヴィンヤードでは遊休荒廃地の状態から生態系調査を行う世界でも珍しい共同研究を行うことができ、草生栽培が生態系を豊かにすることが科学的に明らかになっています。メルシャンが「日本を世界の銘醸地に」というビジョンを掲げ、世界で通用する品質のワインを安定的に産出するために高品質なブドウを持続的に確保すべく自社管理畑を拡大していく取り組みが、「ネイチャーポジティブ」につながり、30by30にも貢献できると考えています。クララを増やす活動は、自然回復の迅速化に貢献し、「自然と共生する世界」をより早く実現することにつながります。塩川小学校の皆さんや日本ワインを愛するボランティアの皆さんとともに行うことで取り組みが広く知られ、地域の方々が新たに同様の活動を始める例も出てきています。
2016年から、従業員やボランティアと始めた生態系を豊かにする活動で、椀子ヴィンヤード内に設けた再生場所は良質な草原と言ってよい状態となり、クララも増えてきました。
今後も、オオルリシジミが椀子ヴィンヤードにやってくることを夢見て、地域の方々やボランティアの皆さんとともに活動を継続していきます。
※所属(内容)は掲載当時のものになります。