トップメッセージ

COOメッセージ

2024年7月

  • キリンホールディングス株式会社
    代表取締役社長COO 最高執行責任者
    グループ事業執行責任者
    南方 健志

私たちキリングループが従事する食領域・ヘルスサイエンス領域・医領域の事業は、経営理念で掲げている通り、自然資本なしでは成り立ちません。自然資本は気候変動の影響を受けるだけではなく、地域性があり、資源量としても偏在しています。環境の課題をビジネスのリスクや機会とリンクさせ、事業を通じて社会にポジティブな影響を与えるとともに、環境経営で世界をリードしていくことが私の責務と考えています。

キリングループの環境ビジョン2050では「ポジティブインパクトで、豊かな地球を」を掲げており、事業を通じて社会全体に良い影響を与えることを目指し、環境への事業の依存と影響を積極的に開示してきました。2017年にTCFDを開示し2022年からはTNFDフレームワークを追加し、気候変動と自然資本の相互関連性を踏まえ、その双方からビジネスを再度見つめ直しています。生物多様性認証付き製品の販売、水源地保全、GHG排出削減、容器包装イノベーションの着実な進捗、気候変動の適応策としての免疫維持や熱中症対策に資する製品等、事業を通じた取り組みが設計、調達、製造、流通のそれぞれの現場でポジティブインパクトに結び付くように考えています。

グローバルの動きを見ても、国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28、2023年)で、気温上昇を1.5℃に抑えるための緊急の行動があらためて要請されました。また、持続可能な農業に関するエミレーツ宣言も同時に発表され、気候変動対策と農業・食料システム強化の両立の重要性が明確に求められています。キリングループでは、以前から、当社は気候変動と自然資本に統合的にアプローチしていますが、地域ごとの文化的、経済的背景を踏まえた特徴や影響の違い、そしてそれを考慮した「公正な移行」の難しさがあることを認識しています。様々な価値観を持つ多様な人々の心と体の健康(Well-being)と、安心して暮らせる持続可能な社会を実現するためには、それぞれの「現場」で生じている課題を正しく認識し、各地域の人たちと共に最適な解決策を導き出すことが肝要です。

私は今年3月末からキリンホールディングスの社長に就任しましたが、「現場に行って、現物を見て、現実を知る」三現主義をモットーにしています。これは、ビジネスのあらゆる場面で重要で、環境経営にもあてはまると考えています。キリングループの環境への取り組みは、工場現場における「公害対策」といった事業活動により生じる外部不経済の低減から50年前に始まりましたが、今後は長期経営ビジョンKV2027で掲げる「世界のCSV先進企業」として、引き続き統合的な環境経営をリードしてまいります。

 

担当役員メッセージ

2024年7月

  • キリンホールディングス株式会社
    常務執行役員
    (CSV戦略、広報戦略、CSV戦略部長)
    藤川 宏

環境に関するグローバルルールの策定は、近年ますます急速な進展を見せています。TNFD最終提言が公表され、いわゆる国際プラスチック条約も議論されています。EUでは企業のサステナビリティ情報開示を強化することを目的としたCSRDが施行され、本年4月にはISSBが「生物多様性・生態系・生態系サービス」及び「人的資本」を次期トピックとして研究プロジェクトを開始すると発表しました。このような動向からも、社会はサステナビリティの課題を統合的に解決する方向に動き始めていると言えます。

私たちは、2013年に開示した「キリングループ長期環境ビジョン」で、環境課題には相互関連性があり、総合的に解決しなくてはならないという理解に基づき、統合的アプローチを採用しました。TCFD提言に対応して当社が2018年に実施したシナリオ分析では、気候変動が当社グループの原料農産物と水に大きな影響を与えることを明らかにしました。TNFDガイダンスを参考とした「リスクと機会」の把握でも、原料農産物と気候変動、使用済み容器包装の不適切な処理の課題が相互に関連することがより明確となっています。今年も私たちが、TCFDやTNFDの単独のレポートを出さず、統合報告書や環境報告書で統合的な形で情報開示している理由はここにあります。

昨年私たちは、環境再生型農業を農家自身の判断で進められるツールである「リジェネラティブ・ティー・スコアカード」の開発をレインフォレスト・アライアンスと共同で開始し、「キリン 午後の紅茶」に使用されている紅茶葉の主な生産国であるスリランカの一部の紅茶農園を対象にパイロットテストを実施しました。シャトー・メルシャン椀子ヴィンヤードでは、ブドウ畑の生物多様性評価の一層の高度化と、炭素貯留効果に関する研究を農研機構と共同で開始しました。同ヴィンヤードは、環境省から「自然共生サイト」の正式認定を受けています。これらの取り組みにより、環境再生型農業の可能性についても知見の蓄積を行っていく予定です。また、プラスチック汚染の根絶を目指す野心的な国際条約策定に向けて、日本政府に政策提言活動を行う「国際プラスチック条約企業連合(日本)」に、キリンは発足当初から参加しています。GHG削減については、Scope1、2は順調に削減を達成しており、Scope3については排出削減に向けた取り組みを推進するため、「キリンサプライチェーン環境プログラム」を2024年4月より開始しています。

今後も、私たちが地球環境に関わる重要4課題として掲げる「水資源」「気候変動」「容器包装」「生物資源」への統合的アプローチを通して、自然の恵みに依存する当社の事業を持続させると同時に、ネイチャーポジティブとサーキュラーエコノミーを実現し、2050年カーボンニュートラルへの貢献においても世界をリードしていきます。