CSV戦略担当役員メッセージ

2024年5月31日

実践的な取り組みと先進的な非財務情報の開示で、
「世界のCSV先進企業」を掲げる企業として存在感を示す

キリンホールディングス株式会社
常務執行役員
藤川 宏

環境経営を進化させ、健康事業の成長を実現していく

――キリングループのCSV経営の進捗について、2023年の振り返りをお願いいたします。

「環境」の観点では、気候変動、生物資源、水資源、容器包装を統合的にアプローチするキリングループの環境経営を進化することができたと思います。GHGの排出量削減や、水資源の効率的使用、再生プラスチックの使用比率の向上など、概ね順調に進みました。また、生物資源の取り組みでは、New Belgium BrewingでTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)のパイロットプログラムに参加してルールメーキングに貢献したり、スリランカの紅茶農園を対象に、レインフォレスト・アライアンスと共同で、環境再生型農業の実践をサポートする「リジェネラティブ・ティー・スコアカード」の開発を開始するなど、世界をリードする環境保全の仕組みづくりに参画しました。
またメルシャンが運営するシャトー・メルシャン 椀子ヴィンヤードは、2023年に環境省自然共生サイト認定実証事業に参加した中で唯一、農産物を生産する事業の畑として認定を受け、同年に日本で開催された「PRI※1 in Person」のサイドイベントの会場に選ばれました。
以上のように環境分野では、ロードマップを一つ一つ達成できており、引き続き世界の環境先進企業として、存在感を示していきます。

「健康」の中のヘルスサイエンス事業では、プラズマ乳酸菌をはじめとする免疫ケア分野を筆頭に、成長を続けています。数年前から開始している菌体の導出に加え、官民連携の「げんきな免疫プロジェクト」を通じて「免疫ケア」の啓発を進めました。結果として免疫ケアの認知率は過去最高となり、プラズマ乳酸菌の売り上げは2023年目標の200億円を達成しました。
また、2023年は豪州の健康食品を展開するブラックモアズが新たにグループ会社に加わり、今後はブラックモアズとシナジーを発揮していくことで、中国を含むアジア・オセアニア地域を中心に当社グループのヘルスサイエンス事業を拡大していきます。
医薬事業では、「クリースビータ」※2が持続的に成長し、次世代の戦略品として期待が大きいアトピー治療薬「KHK4083」も順調に進捗しました。さらに英国オーチャードの株式取得により、遺伝子治療のプラットフォームを獲得するなど、グローバル・スペシャリティファーマとして順調な歩みを進めています。
ヘルスサイエンスと医の領域が成長すれば、当社グループのCSV経営における価値の創造と事業ポートフォリオの充実につながります。引き続き、当社グループの強みである発酵・バイオテクノロジーを進化させながら、第3の柱として成長を目指すヘルスサイエンス領域に応用し、世界の人々の健康で前向きな生活にさらなる貢献を果たしていきます。

「コミュニティ」分野では、前年に引き続き実施した人権デューデリジェンスをアルゼンチンのブドウサプライヤーに対して実施し、大きな問題はないことを確認できました。一方で、グローバルな見地では人権への取り組みはまだ十分であるとは言えず、マーケティング施策における人権対応といった新たな課題も認識しました。2023年には、ミャンマーからも撤退し、人権ガバナンスのさらなる強化のためにキリングループ人権方針の改定も完了しています。

「酒類メーカーとしての責任」では、2024年2月に日本で厚生労働省から新しい飲酒ガイドラインが発表されるなど、アルコールには、さらに厳しい目が向けられています。キリンビールでは、2023年に飲酒運転根絶に向け、「ハンドルキーパー運動」※3を訴求する動画を制作したり、2024年4月からは外部に向けた適正飲酒研修を推進するなど、アルコールの有害摂取根絶に向けて新しい施策も開始しました。

一方で、アルコールは人と人とのつながりや食文化をつくってきた長い歴史もあります。当社グループは、有害なアルコール摂取の防止・根絶に向けて、引き続き適正飲酒の啓発に取り組んでいくとともに、お酒と食のある生活をより豊かにし、人と人とのつながりをつくり、世界中の人と社会のよろこびに貢献する新たなお酒文化の創造に寄与していきます。

  • 財務・非財務の資本を統合的に経営に生かし、企業価値の向上を目指す

「酒類メーカーとしての責任」では、2024年2月に日本で厚生労働省から新しい飲酒ガイドラインが発表されるなど、アルコールには、さらに厳しい目が向けられています。キリンビールでは、2023年に飲酒運転根絶に向け、「ハンドルキーパー運動」※3を訴求する動画を制作したり、2024年4月からは外部に向けた適正飲酒研修を推進するなど、アルコールの有害摂取根絶に向けて新しい施策も開始しました。

一方で、アルコールは人と人とのつながりや食文化をつくってきた長い歴史もあります。当社グループは、有害なアルコール摂取の防止・根絶に向けて、引き続き適正飲酒の啓発に取り組んでいくとともに、お酒と食のある生活をより豊かにし、人と人とのつながりをつくり、世界中の人と社会のよろこびに貢献する新たなお酒文化の創造に寄与していきます。

  • CSVパーパス。「酒類メーカーとしての責任」全ての事業展開国で、アルコールの有害摂取の根絶に向けた取り組みを着実に進展させる。 (Zero Harmful Drinking)。「健康」健康な人を増やし、疾病に至る人を減らし、治療に関わる人に貢献する。「コミュニティ」人と人とのつながりを創り、「心と体」に、そして「社会」に前向きな力を創り出す。「環境」ポジティブインパクトで、持続可能な地球環境を次世代につなぐ。

実践的な取り組みと情報開示によって企業価値の向上につなげる

――長期経営構想キリングループ・ビジョン2027(KV2027)で掲げる「世界のCSV先進企業」の実現に向けた今後の展望を教えてください。

当社グループは、環境リスクを軽減させて価値を保全しながら、食・医・ヘルスサイエンス領域の事業活動を通じてキャッシュフローを生み、新たな社会課題の解決へとつなげ、企業価値を創造していくことで「世界のCSV先進企業」を実現したいと考えています。

しかしながら、当社グループの環境の取り組みや、ヘルスサイエンス事業の成長が、まだ十分でないということを、ステークホルダーの方々とのエンゲージメントを通じて指摘されています。今後は、3つの事業領域全てにおいて、より実践的な取り組みに注力すべきステージと考え、さまざまな取り組みを始めています。

例えば、お客様に当社グループの「健康」イメージをより想起していただけるような取り組みの第一歩として、昨年、プラズマ乳酸菌を使った免疫ケアのコーポレートCMを放映したところ、当社グループの健康イメージが向上し、プラズマ乳酸菌の売り上げにも貢献しました。また、2024年5月には、規格外のために廃棄されることの多い果物を使った「氷結®mottainai」シリーズの第1弾を発売し、消費者・流通の方々からも高く評価されています。

信頼・品質・真面目・誠実・安心感という従来から当社グループが獲得しているブランドイメージは引き続き大切にしつつ、今後はもっと身近で社会に貢献している企業であるとステークホルダーの方々に認識していただけるよう、CSVへの取り組みと直結する商品やサービスを提供し、CSV経営を分かりやすい形でも具現化し、「統合レポート」や「環境報告書」などを通じて情報開示にも積極的に取り組んでいきます。

2023年にはISSB(国際サステナビリティ基準審議会)にて、グローバルなサステナビリティ開示基準であるIFRSサステナビリティ開示基準が公表されました。グループ連結子会社のScope 3も含めた情報開示を日英同時に行う必要があります。そのために現在は、開示に向けたシステム構築や業務設計の改定などを進めています。

他社に先駆け、先進的な開示に取り組むことで、デファクト・スタンダードを確立することが、競争優位性につながると考えています。同時に、グローバルでのルールメイキングに貢献することは、「世界のCSV先進企業」を目指す上でも重要な役割と認識しています。

当社グループが大切にしたいのは、単に開示して終わりではなく、開示情報をもとに当社グループの活動に対してステークホルダーから評価やアドバイスをいただき、対話を深めることです。対話によって、私たちは長期的な経営のリスクや改善すべき経営課題について学びを得て、企業経営のレベルを高め、持続的な企業価値向上につなげていきます。

人的資本の強化がCSV経営実現の鍵を握る

――CSV先進企業の実現のために、重視することを教えてください。

私は、企業と社会課題の向き合い方にはいくつかの種類があると考えています。1つは「人権」「コンプライアンス」「ガバナンス」といった企業として果たすべき普遍的な責務です。これらは企業価値を守るために必ず順守しなければならないものです。2つ目は、経済的価値が少なくても、社会的価値が大きいものであれば、取り組むべき活動です。ただ、この2つ目の活動は経済的価値が十分でない分、企業の業績によって活動量が左右されやすいという課題があります。3つ目は社会的価値だけではなく、経済的価値も創造する、当社グループが事業戦略として掲げるCSV経営です。企業として、普遍的な責務を果たしながら、社会的インパクトを創出し、かつ経済的価値を生み出していくバランスを重視したいと思います。

以上のような3つの視点を持ちながら、食・医・ヘルスサイエンスの事業ポートフォリオに進化させ、それぞれの事業をグローバルでCSV経営を実現するためには、何よりも人的資本の強化が重要で、特に、「専門性」と「多様性」を高めていきたいと考えています。戦略実現に求められる専門能力向上の観点では、2023年キリングループの日本における経験者採用人数が、年間採用者総数の約半数となり、2024年の新卒従業員からは、機能別人財採用を開始し、国内の従業員を対象に「機能軸のタレントマネジメント」に着手しました。多様性の観点では、2019年から継続している留職制度、2020年に開始した従業員の副業制度、外部企業との副業交流制度など、従業員の多様な働き方やスキルアップに資するプログラムも導入しています。また、2024年新卒従業員からは、外国籍人財の採用も開始するなど、多様性を受容する組織風土の醸成にも注力しています。今後も、高度な専門性と多様な視点をもってCSV経営を実践できる人財の育成と組織風土の進化に取り組んでまいります。

人財は社会共通の資産です。当社グループの人的資本を強化することで、企業の競争力と社会資産の価値の両方を高めることにもつながるので、CSVの基本と言えます。私たちは、当社グループの人的資本が世界のCSV先進企業実現の鍵を握ると考えています。

 

  1. Principles for Responsible Investment。国連が提唱した責任投資原則。PRI in Personとは、世界各国から金融の専門家等が集まり、責任投資やESG投資に関する最新情報の共有・意見交換等を行う国際会議のこと。
  2. FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症という希少疾患の治療のための医薬品。
  3. 自動車で飲食店などへ行く場合、お酒を飲まない人(ハンドルキーパー)を決めて、その人が自動車の運転をして仲間などを送り届けること。「乗るなら飲むな、飲むなら乗るな」を実践する、飲酒した人にハンドルを握らせないという運動。
  • 開示情報をもとにステークホルダーとの対話を深めていく

人財は社会共通の資産です。当社グループの人的資本を強化することで、企業の競争力と社会資産の価値の両方を高めることにもつながるので、CSVの基本と言えます。私たちは、当社グループの人的資本が世界のCSV先進企業実現の鍵を握ると考えています。

 

  1. Principles for Responsible Investment。国連が提唱した責任投資原則。PRI in Personとは、世界各国から金融の専門家等が集まり、責任投資やESG投資に関する最新情報の共有・意見交換等を行う国際会議のこと。
  2. FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症という希少疾患の治療のための医薬品。
  3. 自動車で飲食店などへ行く場合、お酒を飲まない人(ハンドルキーパー)を決めて、その人が自動車の運転をして仲間などを送り届けること。「乗るなら飲むな、飲むなら乗るな」を実践する、飲酒した人にハンドルを握らせないという運動。