財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析
(1)経営成績
①事業全体の状況
2023年、日本国内では、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染症法上の位置付けが5類に移行し、社会生活や働き方がふたたび変化した1年でした。人の移動が活発になり、街は賑わいを取り戻しつつあります。一方、世界では様々な地域で地政学リスクが高まり、世界的なインフレや為替変動等が続いています。加えて、地球温暖化による新たな感染症のリスク増大や、生成AIをはじめとしたITテクノロジーが急速に進化するなど、消費者の価値観や行動、社会の変化はますます複雑で先行きが見通せない時代です。
キリングループは、創業以来一貫して発酵・バイオテクノロジーをコア技術とし、酒類・飲料事業だけでなく、医薬事業にも強みを持つ、世界でも類を見ない企業グループへ進化を続けています。
このコア技術を背景に、「プラズマ乳酸菌」等特長ある素材を生かしたヘルスサイエンス事業に2019年から取り組んでいます。
健康課題のみならず、社会が抱える課題をキリングループの強みで解決し、同時に企業としての経済的価値を創出し企業価値の最大化を実現していきます。
2023年のキリングループは、不確実性が高まる厳しい環境下でも、着実に成果を上げました。長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」(略称:KV2027)のもと、「キリングループ2022年-2024年中期経営計画」(略称:2022年中計)の達成に向け、食領域の利益増大や医領域のグローバル基盤強化、ヘルスサイエンス領域の拡大を推進しました。
食領域
酒類・飲料事業では、国内外で主力ブランドの強化と、新たな成長エンジン育成に向けた高付加価値商品の拡大に取り組みました。また、原材料価格の高騰など厳しい環境下でもコスト削減や価格改定で対応し、収益性改善に取り組みました。
各社の方針と実績
医領域
協和キリン㈱では、グローバル戦略品の価値最大化に注力しました。また、次世代パイプラインの拡充と将来の医療ニーズへの対応に向けて英国のバイオ医薬品メーカー、Orchard Therapeutics plcの株式取得のための契約を締結するなど、日本発のグローバル・スペシャリティファーマとして、持続的成長に向けた基盤強化を進めました。
各社の方針と実績
ヘルスサイエンス領域
プラズマ乳酸菌関連事業を中心に、飲料やサプリメント等自社グループ商品の積極展開に加え、外部パートナー企業による商品展開を通じ、事業規模を拡大しました。また、豪州を拠点にアジア・パシフィックでサプリメント等の健康食品(ナチュラル・ヘルス)事業を展開する、Blackmores Limitedの株式を取得し、ヘルスサイエンス領域の成長加速に向けた体制を構築しました。
各社の方針と実績
ESGの観点でも多くの実績を上げ、国内外で高い評価を獲得しました。
2023年7月に発行した「環境報告書2023」では、TCFDとTNFDに基づく統合的な環境経営情報を開示した事例が、投資家をはじめとする世界のステークホルダーから、先駆的な取り組みと評価されました。
キリンビール㈱では、国内全ての工場・営業拠点で購入電力の再生可能エネルギー(以下、再エネ)100%化を進めました。
メルシャン㈱では、「シャトー・メルシャン椀子ヴィンヤード」が、生物多様性の損失を止め回復させる世界目標「30by30」達成に資する自然共生サイトとして、環境省から正式認定されました。
ヘルスサイエンス領域では、「プラズマ乳酸菌」の発見・商品化による社会への貢献が評価され、「令和5年度全国発明表彰」で、健康食品素材で初、食品企業としては59年ぶりに「恩賜発明賞」を受賞しました。
また、「第7回日経スマートワーク経営調査」では、7年連続で最高位を獲得しました。多様で柔軟な働き方やエンゲージメントの項目が評価されたものです。「第5回日経SDGs経営調査」でも、5年連続で最高位を獲得しました。事業を通じ、持続可能な資源活用や生物多様性の保全に取り組んだ成果が評価されたものです。
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2023年実績 |
2022年実績 |
対前年増減 |
対前年増減率 |
連結売上収益 |
2兆1,344億円 |
1兆9,895億円 |
1,449億円 |
7.3% |
---|---|---|---|---|
連結事業利益 |
2,015億円 |
1,912億円 |
103億円 |
5.4% |
連結営業利益 |
1,503億円 |
1,160億円 |
343億円 |
29.5% |
連結税引前利益 |
1,970億円 |
1,914億円 |
57億円 |
3.0% |
親会社の所有者に帰属する当期利益 |
1,127億円 |
1,110億円 |
17億円 |
1.5% |
(重要成果指標) | ||||
ROIC |
8.0% | 8.5% | ― | ― |
平準化EPS |
177円 | 171円 | 6円 | 3.5% |
2023年度の連結売上収益は、国内ビール・スピリッツ事業、国内飲料事業、オセアニア酒類事業、医薬事業及びコーク・ノースイースト社の増収により増加しました。連結事業利益は、国内飲料事業、協和発酵バイオ㈱等が減益となりましたが、国内ビール・スピリッツ事業、オセアニア酒類事業、医薬事業及びコーク・ノースイースト社等が増益となり、全体では増益となりました。親会社の所有者に帰属する当期利益は、ミャンマー事業撤退による為替換算調整勘定の実現損、協和発酵バイオ㈱および協和キリン㈱に係る減損損失の計上があったものの、協和キリン㈱の欧州事業売却や持分法投資損益の増加等により増益となりました。
重要成果指標について、ROICは、Blackmores Limitedの取得等により8.0%となりました。平準化EPSは、連結事業利益の増加等により前年より6円増加の177円と過去最高となりました。
②セグメント情報に記載された区分ごとの状況
セグメント別の業績は次の通りです。
2023年実績 | 2022年実績 | 対前年増減 | 対前年増減率 | |
連結売上収益 | 2兆1,344億円 | 1兆9,895億円 | 1,449億円 | 7.3% |
---|---|---|---|---|
国内ビール・スピリッツ | 6,849億円 | 6,635億円 | 213億円 | 3.2% |
国内飲料 | 2,550億円 | 2,433億円 | 118億円 | 4.8% |
オセアニア酒類 | 2,810億円 | 2,559億円 | 251億円 | 9.8% |
医薬 | 4,419億円 | 3,979億円 | 440億円 | 11.1% |
その他 | 4,716億円 | 4,289億円 | 427億円 | 10.0% |
連結事業利益 | 2,015億円 | 1,912億円 | 103億円 | 5.4% |
国内ビール・スピリッツ | 777億円 | 747億円 | 31億円 | 4.1% |
国内飲料 | 169億円 | 188億円 | △19億円 | △10.1% |
オセアニア酒類 | 324億円 | 315億円 | 9億円 | 2.7% |
医薬 | 960億円 | 825億円 | 135億円 | 16.4% |
その他※ | △215億円 | △163億円 | △52億円 | ― |
- その他は、全社費用・セグメント間取引消去などを含んでおります。
③開示セグメント区分の変更
2024年度以降、事業戦略に沿った、より分かりやすいセグメント開示を行い、より深いステークホルダーとの対話を行います。
(2)財政状態
①事業全体の状況
2023年度末の資産合計は、2022年度末に比べ3,273億円増加して2兆8,696億円となりました。有形固定資産、のれん、及び無形資産については、Blackmores Limitedの買収や為替変動の影響等によって、前年度末に比べ2,360億円の増加となりました。また、現金及び現金同等物が前年度末比433億円増加しました。一方、Myanmar Brewery Limitedの売却等により、売却目的で保有する資産が461億円減少しました。
資本は、利益剰余金が647億円増加、その他の資本の構成要素が921億円増加し、前年度末に比べ1,726億円増加して1兆4,258億円となりました。その他の資本の構成要素の増加要因は、主に円安の影響によって在外営業活動体の換算差額が901億円増加した影響です。
負債は、前年度末に比べ1,547億円増加して1兆4,437億円となりました。2023年10月にBlackmores Limitedの買収に伴うソーシャルボンド600億円を含む社債930億円を発行したこと及び新規借入等により、社債及び借入金が1,333億円増加しました。
これらの結果、親会社所有者帰属持分比率は39.5%、グロスDEレシオは0.58倍となりました。
②セグメント情報に記載された区分ごとの状況
国内ビール・スピリッツ
2023年度末のセグメント資産は、その他の非流動資産が増加したこと等により、前年度末に比べ110億円増加して4,431億円となりました。
国内飲料
2023年度末のセグメント資産は、設備投資による有形固定資産の増加及びその他の非流動資産が増加したこと等により、前年度末に比べ145億円増加して1,477億円となりました。
オセアニア酒類
2023年度末のセグメント資産は、為替変動の影響等によって、のれん及び有形固定資産が増加したこと等により、前年度末に比べ605億円増加して6,072億円となりました。
医薬
2023年度末のセグメント資産は、欧州エスタブリッシュト医薬品事業の合弁化に伴う持分法で会計処理されている投資の増加及び為替変動の影響等による有形固定資産やのれんの増加、並びに現金及び現金同等物が増加したこと等により、前年度末に比べ911億円増加して9,714億円となりました。
(3)キャッシュ・フロー
①キャッシュ・フローおよび流動性の状況
2023年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)の残高は、前年度末に比べ433億円増加の1,314億円となりました。活動毎のキャッシュ・フローの状況は以下のとおりであります。
営業活動によるキャッシュ・フロー
営業活動による資金の収入は前年同期に比べ676億円増加の2,032億円となりました。非資金損益項目である減損損失が362億円減少したものの、持分法で会計処理されている投資の売却益が326億円減少し、子会社株式売却損も191億円増加した他、運転資金の流出が149億円減少したこと等により、小計では334億円の増加となりました。小計以下でも法人所得税の支払額が322億円減少したこと等により、営業活動によるキャッシュ・フローが前年同期比で増加となりました。
投資活動によるキャッシュ・フロー
投資活動による資金の支出は前年同期に比べ2,157億円増加の2,261億円となりました。2023年度の資金の収入には、子会社株式の売却や政策保有株式の縮減に向けた取組みを引き続き推進したことによる投資の売却がそれぞれ80億円ありました。一方、2023年度に豪州子会社を通じてBlackmores Limitedに対する支配を獲得したことにより子会社株式の取得による支出が前年同期に比べ1,159億円増加したことや前年度の華潤麒麟飲料(大中華)有限公司売却の影響で持分法で会計処理されている投資の売却による収入が前年同期に比べ982億円減少となったことなどが前年同期比の支出増加要因となりました。なお、有形固定資産及び無形資産の取得については、前年同期に比べ153億円増加の1,138億円を支出しました。
財務活動によるキャッシュ・フロー
財務活動による資金の収支は359億円の収入(前年同期は1,678億円の支出)となりました。これは、Blackmores Limitedの買収に伴い有利子負債が1,630億円増加した他、前年度に株主還元の拡充を目的とした自己株式取得を実行した影響で自己株式の取得による支出が500億円減少したことなどが要因となります。なお、安定した株主還元を継続的に行う方針に基づき、平準化EPSに対する連結配当性向40%以上の配当を実施しており、非支配持分を含めた配当金の支払いは712億円となりました。
当社グループは、引き続き「BS(バランスシート)・PF(ポートフォリオ)マネジメントによるキャッシュ創出」により生じる資金を「機動的な株主還元施策」と「成長ドライバー獲得への規律ある投資」に振り向け、適切な利益還元と企業価値の向上に繋げていきます。
②資本政策の基本的な方針
当社は、2022年中計にて策定した資本政策に基づき、事業への資源配分及び株主還元について以下の通り考えております。
事業への資源配分については、ヘルスサイエンス領域を中心とした成長投資を最優先としながら、既存事業の強化・収益性改善に資する投資を行います。また、将来のキャッシュ・フロー成長を支える無形資産(ブランド・研究開発・ICT・人的資本など)及び新規事業創造への資源配分を安定的かつ継続的に実施します。なお、投資に際しては、グループ全体の資本効率を維持・向上させる観点からの規律を働かせます。
株主還元についても、経営における最重要課題の一つと考えており、1907年の創立以来、毎期欠かさず配当を継続しております。「平準化EPSに対する連結配当性向40%以上」による配当を安定的かつ継続的に実施するとともに、自己株式の取得については、追加的株主還元として最適資本構成や市場環境及び投資後の資金余力等を総合的に鑑み、実施の是非を検討していきます。
資金調達については、経済環境等の急激な変化に備え、金融情勢に左右されない高格付けを維持しつつ、負債による資金調達を優先します。中長期的な目標達成に必要とされる投資に係る資金調達により支配権の変動や大規模な希釈化をもたらす資金調達については、ステークホルダーへの影響等を十分に考慮し、取締役会にて検証及び検討を行った上で、株主に対する説明責任を果たします。