キリングループは課題を真摯に受け止め、持続的な企業価値向上に向けた新たな戦略のもと、取り組みを推進しています。ここでは、グループ最高経営責任者である磯崎功典が厳しい質問にも真正面からお答えし、キリングループ再成長への道筋を明確にしていきます。
「健康」に関わる社会課題にしっかり向き合い、お客様に喜んでいただける価値創造主導の成長を加速させることがまず重要です。そうすることで、社会的価値と経済的価値の双方を引き上げ、持続的に企業価値を向上させていくことが可能となります。
高度な技術力やものづくりの力を活かして高付加価値商品を生み出すという「価値創造」において、キリングループは卓越した力を持っています。例えば「キリン氷結®」。すっきりとしたウォッカをストレート果汁で割ることによって実現した爽快な飲み心地や、ダイヤカット缶の斬新さなどが消費者に強く支持されて、RTD※1 市場を大きく拡大し、現在もその成長を牽引する大ヒット商品となっています。「淡麗グリーンラベル」もキリンならではの高付加価値商品。おいしい上に、糖質70%オフという機能性が多くの消費者に支持されて2002年の発売開始以来、約73億本を売り上げ、ロングセラーブランドとして機能系カテゴリーの成長を牽引してきました。
この強い価値創造力をボトムライン成長につなげられなかった要因は大きく二つあります。
一つは、「経営資源の効率的な配分」ができていなかったという点です。例えば国内ビール事業では、ブランドへの投資強化を基本戦略としながらも、ボリュームを追って新商品を発売するなど、一貫性のある戦略が取りきれていませんでした。この結果、複数の商品に投資が分散し、優位性のあるブランドを育てきれていなかったと考えます。
二つ目の要因は、「事業環境が悪化した際の対応力」です。子会社のブラジルキリンでは、2013年度下半期からプレーヤー間の競争が激化する中で、利益確保のため過剰とも言える値上げを行ったり、主力ブランドのリニューアルによって、逆に消費者の支持を失ったりするなど、マーケティングの失敗が相次ぎました。こうした事態に対して、キリンホールディングスが即座に動くことが必要でしたが、それに適したガバナンス体制になっていませんでした。
私がまず着手したのは、国内ビール事業の立て直しです。国内ビール事業は、キリングループにとっては正に柱となる事業であり、その立て直しはグループ全従業員の士気に関わってきます。具体的には、フラッグシップブランドである「一番搾り」に投資を集中させました。キリンビールは対前年減益の計画とし、マーケティング投資を増額させた結果、国内ビール類のシェア※2は実に6年ぶりに反転・上昇し、グループ従業員のモチベーションが上がっています。
元々、競争優位にあったビール類の「機能系カテゴリー」において、キリンビールのシェア※2が2015年度において一段と上昇した点も大きな成果の一つです。消費者の健康志向が一層の高まりを見せる中、この「機能系カテゴリー」は、高い成長が見込め、かつ強みである技術力を活かせる領域です。私たちが中長期的に目指している「社会課題への取り組みを通じた価値創造」を実現させる上でも重要な領域だと考えています。
一方で、業績が大幅に悪化したブラジルキリンに対しては、徹底した構造改革に着手しました。まず、キリンホールディングスにブラジル専任担当執行役員を設置してガバナンスを強化、ホールディング会社が事業会社と一体となって構造改革を加速できる体制を整えました。また、営業力に定評のある新たなCEOをグループ外部から迎え入れて、スピーディーなマーケティング施策の転換、大胆なコスト削減の取り組みを実施しました。これら一連の施策の成果が業績面に表れるにはまだ時間を要しますが、向こう3年間で必ずやブラジルキリンを再生させます。
質問で指摘されたとおり、国内ビール市場のパイは頭打ちの状況にあります。そのような中で、これまでどおり「ボリューム」だけを追い求めていては、プレーヤー間の競争が激化して、収益性は低下の一途をたどります。
キリングループならではの技術優位性を活かして、競争軸を、徐々に「ボリューム(量)」から「バリュー(価値)」へ移す
―これこそが私たちキリンの成長戦略なのです。
ボリュームからバリューへと私たちが舵を切る背景には消費者ニーズの変化があります。市場が拡大を続けていた大量消費時代には、メーカーはナショナルブランドの拡販に注力するだけで成長することが可能でした。
しかし、ニーズの多様化が加速している今日、メーカーは、ナショナルブランドの拡販と並行して、こうした多様なニーズにもきちんと対応していくことが求められています。
日本おいては、主力ブランド強化と併せて、機能系カテゴリーを強化して、高まり続ける消費者の健康志向に応えていく戦略を展開しています。同時に、多様な味わい、つくり手のこだわりが感じられる商品を求める消費者ニーズに対応すべく、クラフトビールの開発・販売にも注力しています。
また、地元愛や日本ならではの素材・旬への感受性に注目、「地域特性・季節感」に合わせた商品開発、販売に注力し、ビールの新しい楽しみ方を発信することで、ビール市場を活性化し、需要を自らつくり出していく取り組みを始めました。
ニーズの変遷への的確な対応は、決してどのメーカーにもできることではありません。強い研究開発機能を有し、過去においても技術開発力でニーズの変遷に対してタイムリーに応え、まったく新しい価値と市場を創造してきたキリングループだからこそできる―私はそのことを確信しています。
キリングループはビール事業で培ったバイオテクノロジーを活かせる新規事業として、1980年初頭に医薬事業への参入を決定しました。1990年に発売したバイオ医薬品である腎性貧血治療剤「エスポー®」は、ビールの生産技術を応用して大量生産に成功したものです。その後、着々と成長を続けキリンファーマが誕生し、2008年に協和醗酵工業と経営統合しました。
両社は有効な治療法が見つかっていない疾患領域で高い治療効果が期待でき、副作用が少ないと言われる「抗体医薬」を強みとしていました。この2社が統合することで更にその技術力が強化されました。こういった独自のバイオ技術を通して社会に貢献できるという意味においても、医薬・バイオケミカル事業は、キリングループならではのCSVを体現した事業であり、酒類・飲料と並ぶキリングループの中核事業です。
医薬・バイオケミカル事業を担う協和発酵キリンは、現在、腎、がん、免疫・アレルギー、中枢領域で有望なパイプラインを持っている成長ポテンシャルの大きな企業です。とりわけ、X染色体遺伝性低リン血症などを対象疾患としたKRN23は、この5年間でグローバル展開していくステージにあり、がん領域のKW-0761(日本名「ポテリジオ®」)は現在注目されているがん免疫療法において、世界から大きな期待が寄せられています。
2015年度においては大幅な増益を達成し、キリングループの連結決算に多大な貢献をしてくれましたが、中長期的な視野で考えると、実力はまだまだこんなものではないと考えています。そこで、目先の業績には多少重荷になってもR&D投資を継続し、パイプラインにある開発品の上市を確実なものとし、グローバル化に対応した組織の構築と販売インフラの整備により、中長期的に欧米市場での大きな飛躍を果たしたいと考えています。
低収益事業を長期間放置することは、企業価値を毀損することでもあり、決して許されることではありません。私はグループの最高経営責任者として、2016年中計期間内に低収益事業を再生させるべく全力を上げます。
キリンホールディングスのガバナンスがしっかりと効く体制を構築した上で、現地CEOを入れ替え、特約店の立て直し、価格政策の見直しなどマーケティング面の強化を図ってきたブラジルキリンでは、シェアの大幅低下が続く最悪の状態は脱しつつあります。今後はトップラインの成長力の回復を着実なものにするとともに、コスト構造改革を加速させます。トップライン成長力の回復への戦略としては、元々、ブラジルキリンが強いプレゼンスを発揮していたブラジル北部・北東部においては、主力ブランド「スキン」への集中投資を行います。これに対して競争劣後にあった南部・南東部では、クラフトなどプレミアム系ビールを中心とした拡販を図るという地域別戦略を展開していきます。
同時に、ブラジル景気の本格回復が見えない中ですので、コスト構造改革を一気に加速させます。自社卸の経営効率化、製造拠点の最適化、間接費の削減などを通して2016年度には2億レアル(約60億円)のコスト削減を見込んでいます。
キリンビバレッジでは、2015年度において、基盤ブランドである「キリン 午後の紅茶」が好調であった上に、炭酸飲料カテゴリーで「メッツ」ブランドが大きくプレゼンスを高めるなど、トップラインは着実に成長を遂げました。
今後は「販売手法やプロダクトミックスの改善」と「コスト構造の見直し」によって、「利益ある成長」に主眼を置いた経営へと転換します。
前者では、主力ブランドに投資を集中するとともに、収益性の高い缶・小型PETの販売比率を経営目標に置いたマネジメントへ転換します。また、収益性の高い自動販売機による販売の比率を高めるべく、他社との共販体制を強化します。
後者では、サプライチェーン全体における見直しを徹底するとともに、自製比率を高めることで製造原価の低減、コスト削減を実行します。
「健康」に関わる社会課題にしっかり向き合い、お客様に喜んでいただける価値創造主導の成長を加速させることがまず重要です。そうすることで、社会的価値と経済的価値の双方を引き上げ、持続的に企業価値を向上させていくことが可能となります。
そのためには、キリンならではの付加価値を生み出す事業基盤、特に技術基盤を継続的に強化していくことが重要です。また、事業基盤は人によって支えられているものですから、中長期的な視野で人材の育成には惜しみない投資を続けていきます。また、人材、技術については、必ずしも自前主義にこだわることなく、価値創造を第一義として、時には外部のリソースを活用することも行っていきます。
グループ内の事業会社が、それぞれの資産を相互活用しシナジーを創出していくことも重要です。例えば、日本におけるクラフトビールへの積極的な取り組みは、もともと豪州のライオンが現地でも成長カテゴリーであるクラフトビールでトップシェアを持っており、市場を牽引していたもので、ライオンの知見をキリンビールがうまく活用した実例と言えます。
また、2015年8月に買収したミャンマー・ブルワリーは、急成長が見込めるビール需要に対応するために製造能力を拡大していくステージにあります。これに対して、キリンビールが技術支援を行って成果を上げており、更にプレミアムビール商品をブランドポートフォリオに加えることでも協働し、ミャンマー・ブルワリーの成長をサポートすることが可能です。
キリングループは、酒類、飲料、医薬・バイオケミカルという事業領域を持った特色のある企業集団です。今後は、この事業ドメイン間でもシナジーを発揮して、社会課題の解決にもつながる「健康」をテーマとした新たな価値創造分野を探索することにも挑戦していきたいと考えています。
当社はこれまでも継続的な増配、自社株買いなどを通して、株主還元に対しては積極的に取り組んできました。今後も引き続き、平準化EPSの30%以上の配当を安定的に実施していきます。
もちろん、株主価値は配当だけで向上させられるものではありません。株主にとって配当とともに重要な株価を意識した経営を一層推進すべく、まずは2016年中計に掲げた定量目標を着実にクリアすることに全力を上げていきます。
代表取締役社長
1977年キリンビール株式会社入社。経営企画部門を中心に、国内支店、事業開発(国内、ロサンゼルス)、米国コーネル大学ホテル経営学部への留学、グループのホテル事業、広報、サンミゲル社(フィリピン)副社長等を経験。2010年キリンホールディングス株式会社常務取締役、2012年キリンビール株式会社 代表取締役社長、2013年キリン株式会社 代表取締役社長を経て、2015年3月キリンホールディングス株式会社代表取締役社長に就任。