CFOメッセージ
新たな成長を目指した、グループの基盤をつくり、平準化EPSとROICにコミットすることで企業価値最大化に取り組む
取締役常務執行役員
横田 乃里也
中計の進捗
2019年は計画を達成。中計は順調に進捗
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今中計の内容について改めて説明をお願いします。
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前中計において、事業の再編・再生に一定の目処をつけることができました。既存の事業は概ね堅調であり、各事業において収益性のさらなる向上を目指し取り組んでいます。しかし、キリングループの基盤である日本・豪州のビール事業の環境は厳しさを増しており、現在の事業ポートフォリオだけでは将来の持続的成長は困難であると考えています。そのため、長期的な視点で我々の強みを生かした新たな成長の柱を育成することが必要です。今中計のキャッシュアロケーションでは、まず無形資産への投資や設備投資など既存事業の利益成長を実現するための投資を優先します。さらに、配当性向40%以上の安定的な配当を行った上で、将来の成長を実現する成長投資にキャッシュを配分する計画としています。また、収益性の低い事業や資本コストに見合わない政策保有株式など持続的成長に貢献しない資産の圧縮を進め、自己株式取得によるさらなる株主還元も引き続き検討していきます。
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KPIについて教えてください。
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今中計における財務KPIには、平準化EPSとROICを定めました。平準化EPSは年平均成長率5%以上をターゲットにしており、主に既存事業(食領域/医領域)の利益成長により実現します。その成長で得たキャッシュを成長投資と株主還元に振り向けていきますが、規律をもった投資を実行することで、ROIC目標10%以上の達成を目指します。財務KPI達成のためには、各事業の利益水準改善だけでなく、バランスシートマネジメントの強化も必要です。
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進捗はいかがでしょうか?
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2019年は2つの指標の単年度目標をどちらも達成しました。特にキリンビール、キリンビバレッジ、協和キリンなどの既存事業が目標通り利益成長を実現できています。また、バランスシートマネジメントとしては、オーストラリア乳飲料事業の売却や360億円規模の政策保有株式売却により資産を圧縮したことに加え、関連した自己株式取得の実施も大きな進展と考えています。今後も2021年の目標達成に向けて、各事業における利益目標の達成や、政策保有株式など持続的成長に貢献しない資産のさらなる圧縮など、包括的に取り組んでいきます。成長投資については、ビール事業の拡大を目指し、北米のクラフトビール会社であるNewBelgium Brewing Companyに出資しました。また、ヘルスサイエンス領域では、ファンケルに出資しました。ファンケルへの出資はヘルスサイエンス領域のサプライチェーン構築のための重要な投資であり、将来の成長を実現する事業の立ち上げ、育成を加速させることができました。
既存事業の収益性強化とヘルスサイエンス領域の立ち上げ
国内事業、医薬事業は堅調に推移。課題はオセアニア、協和発酵バイオ
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CFOとして既存事業の収益性向上をどのように評価していますか?
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国内の主要事業会社であるキリンビールとキリンビバレッジはともに不確実性が増す難しい市場環境の中で、利益創出力が高まっていると評価しています。キリンビールは4年連続増益、キリンビバレッジは5年連続増益を達成することができました。両社とも投資対効果を重視したマーケティングの実行や、組織風土改革などの社内変革が進んでいます。
医薬事業を担う協和キリンも、薬価改定や主力商品の特許切れがありましたが、「Crysvita」などによりグローバル市場への展開が始まり、順調に業績を伸ばしています。グループの利益成長を中期的に支えるのは医薬事業であり、進捗は順調と評価しています。一方で課題はオセアニアのライオンです。2019年は、競合による価格競争の激化など市場環境の変化や、ライオンにおける構成比が最も高いクラシックカテゴリーの減少トレンドが継続し、ブランド強化、コスト削減に取り組みましたが、減益となりました。今後も豪州市場の動向を注視する必要がありますが、継続してコンテンポラリーやクラフトビールなど成長カテゴリーにおけるブランド育成、本社・SCMにおけるコスト削減により収益性の改善を目指します。
企業価値の最大化に向けた財務戦略
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協和発酵バイオの再生計画と今後の収益性についてどのように考えていますか?
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協和発酵バイオは製造手順を確認しながら段階的に製造を立ち上げるため、2020年は赤字計画となります。供給量の回復については、顧客からも要請があり、事業再生計画を確実かつ迅速に実行します。キリングループには長年培ってきた、生産管理・品質管理の十分なケイパビリティがあり、協和発酵バイオを立て直すことができると確信しています。
今後グループの成長を担うヘルスサイエンス領域の中で、協和発酵バイオは社会課題の解決に大きく貢献する優良な素材を多く保有しています。組織改革を断行し、再生だけでなく、再成長の軌道に乗せることが我々の責務だと考えています。すでにキリンビールを中心に十分な人材を送り込み事業再生に着手しています。2020年は赤字計画となりますが、2024年には事業利益で95億円まで回復させることを目指します。さらに、強みである高機能素材を活用した高付加価値領域を拡大し、2027年には150億円以上の利益創出を目指します。
バランスシートマネジメント
持続的成長に貢献しない資産の圧縮を進め、ROIC向上に取り組む
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KPI達成のためのバランスシートマネジメントとはどのようなことでしょうか?
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前中計において有利子負債の返済が進み、現在もグロスD/Eレシオは0.59と財務柔軟性を保った水準を維持しています。格付けの安定と、今後のレバレッジの柔軟性を確保するためにも現在の水準が適正だと考えています。WACCは6%と算定しており、ROICは10%を最低として、それ以上の水準を目指し、継続して投下資本効率を高めていきます。そのためには、ライオンの乳飲料事業の売却や政策保有株式の縮減など、資産圧縮を継続するとともに、より資本効率の高い事業資産の比率を高め、ROIC基準を満たす成長投資を行うことで、KPIの達成を目指していきます。
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ファンケルなどこれまでに行った投資はROIC10%以上 なのでしょうか?
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ファンケル単独でのROICは5年間で10%未満となりますが、ヘルスサイエンス領域におけるビジネスモデルを構築し、将来における収益性の柱となる新しい事業を確立するために必要な戦略的投資として長期的な視点から決断しました。グループ全体ROIC目標は達成していきます。その他の投資案件については、すべてROIC 10%以上を確認して意思決定を行っています。過去のM&Aからの学びを意思決定プロセスに反映させており、財務基準をクリアすることだけでなく、ブランド力の強さ、経営陣のケイパビリティ、収益性など、多面的に検証することで規律をもった意思決定を行っています。2015年に出資したミャンマー・ブルワリーはこのプロセスが生かされており、PMIが順調に実施され、出資以降も高い成長率を維持しています。
キャッシュアロケーション
順調に進捗、今後も中計のアロケーション方針を維持する
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3年間のキャッシュ・フロー計画の進捗はいかがでしょうか?
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キャッシュアウトについては、3年間で設備投資に3,100億円、配当に2,100億円以上、成長投資に約3,000億円を見込み、さらにキャッシュインの状況も踏まえて機動的に株主還元を行う計画です。2019年の実績は、設備投資は964億円、配当は652億円となりました。
また、成長投資はこれまでに約1,800億円実施しており、総じて中計で掲げている計画は順調に進捗しています。キャッシュインについては、営業キャッシュ・フロー7,000億円を見込んでいます。2019年は1,788億円となっており、キャッシュ創出力最大化のために引き続き必要な施策を実行していきます。さらに2019年はライオンの乳飲料事業、政策保有株式の売却により約1,000億円のキャッシュインがあり、同水準の自己株式取得を実施しました。
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今後の見込みについてはどのように考えていますか?
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既存事業の収益性強化によって計画通りの営業キャッシュ・フローを確保したいと考えていますが、2020年はライオンや協和発酵バイオの影響により弱含みで推移する見込みです。さらに、新型コロナウイルスによる世界規模の経済停滞による影響は予断を許さない状況です。影響を見極めながら的確な対応を取りたいと考えています。2021年については、今中計の方針に変更はありませんが、不確実性を増すマクロ環境を考慮して、投資の優先順位をより一層明確にするなど、適切な対応が必要と考えています。
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さらなる株主還元についてはどのように考えていますか?
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今中計で掲げている方針は変わりません。まず、2019年より始めた配当性向40%以上を継続します。また、成長投資の機会探索は続けるものの、案件そのものがない、または投資基準を満たさないために実現しないこともあり得ます。その場合は、機動的にさらなる自己株式取得を実施したいと考えています。
最後に
KPIの達成によって企業価値を最大化させる
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最後にメッセージをお願いします
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2019年は、長期経営構想「KV2027」の中で示した戦略が大きく進展した1年でした。一方で、ライオンや協和発酵バイオの業績低下など、課題も顕在化しました。今後は、食領域、医領域の利益成長を確実に達成すると同時に、ヘルスサイエンス領域が確実に立ち上がっていることを、実績をもって示すことが重要と考えています。新型コロナウイルスによる影響も懸念されますが、事業への影響を把握しながら、適切なアクションを柔軟に取ることで、2019年中計で掲げたKPIの達成を目指します。また、成長投資の判断に関して、投資判断が適切に行われているのか、資本市場から懸念に思われていることも把握しています。懸念を解消するためにも、取締役会によるガバナンスをより一層強化し、規律をもった投資の意思決定を行うとともに、従来以上に説明責任を果たしていきます。
経歴
取締役常務執行役員
横田 乃里也
1984年、キリンビール入社。キリンビール生産本部生産部長、キリン人事部長、キリンホールディングス常務執行役員グループ経営戦略担当ディレクターなどを歴任。2018年、当社取締役常務執行役員に就任。