人材力の強化
イノベーションの創出に不可欠な組織能力を強化する
「VUCAの時代」と言われ経営環境の不確実性が高まる中、キリングループは長期経営構想「KV2027」において「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる」というビジョンを掲げて、新たなステージへの進化に挑戦しています。
このビジョンを実現するためには、社会課題の解決に資するイノベーションを持続的に生み出す組織能力が必要ですが、「人材」こそ最大の企業競争力の源泉です。グループがイノベーション創出の基盤と位置づけるマーケティング力や技術力、ICTの力を高めるものは、人にほかなりません。
人材戦略において重視している課題の1つは「多様性の推進」です。Diversity(多様性)は、グループの社員が共有すべ き価値観“One KIRIN” Valuesの1つでもあり、価値創造に不可欠な要素です。さまざまな属性、視点、感性、能力・経験をもつ社員の力を掛け合わせることが、新たな価値を生む原動力になります。そこでキリングループは、多様な専門能力をもつ人材の獲得を進めるとともに、グループ内外での異動や交流を通じて社員の視野の多様化にも注力しています。また、グループ経営人材を継続的かつ計画的に育成・強化していくことも、人材戦略における重要な要素となっています。
これらと並んで、多様な人材がそれぞれの可能性を十分に発揮して、自ら挑戦できる企業風土の醸成とともに、その基盤となる職場環境の整備にも取り組んでいます。組織を活性化することで、イノベーション創出力が高まると考えているからです。
多様な価値観・考え方・能力・経験の掛け合わせによる、イノベーションの実現
多様性の推進
多様な視点と能力・経験を生かして事業を強化
キリングループは、大きく2つの方向性で人材の多様性を推進しています。
1つは採用における多様な人材の獲得であり、これまでの新卒採用中心ではなく、豊富な知見や高い専門性を有する人材のキャリア採用を積極的に進め、採用者に占める割合を30%以上とすることを目指しています。特に一定の権限をもつ中間マネジメント層にこうしたキャリア採用者を登用することで、意思決定のあり方やメンバーの育成面などで、望ましい変化が現れてきています。
もう1つの方向性は、グループ内外での人材交流を進め、社員一人ひとりの視点を多様化していく取り組みです。これは若手だけにとどまらず、マネジメント層の人材強化策としても実施しており、意識改革を促すグループ会社間異動やグループ外企業との人材交流を拡充しています。中でも、ヘルスサイエンス領域については、積極的な人材交流によって社員の多様な視点と能力・経験を生かすことで、事業基盤の強化を推進していきます。このほかにも社外派遣や兼業・副業の拡大、キャリアリターン(退職者再雇用)制度の拡充など、社員一人ひとりの視点を多様化するさまざまな取り組みを推進しています。
また、多様な視点を生かした事業展開を加速していくために、女性リーダーの育成に注力しています。女性社員が結婚や出産・子育てなどのライフイベントを迎える前に、できる限りの職務経験を積む「前倒しのキャリア形成」の考え方に基づいて、キャリア意識の醸成に向けたワークショップやメンタリングプログラム、リーダーシップや戦略構築力を養成する「キリンウィメンズカレッジ」、異業種での相互研鑽とネットワーキング構築の機会提供を通じてリーダー育成を図る「社外研修派遣」などを継続的に実施しています。キリングループは2021年の女性リーダー比率を2013年比3倍の12%にする目標を設定しており、2019年は8.4%まで拡大しました。
COLUMN
特例子会社を設立し、障害者雇用を拡大
キリングループは、2011年1月に「グループ障害者雇用憲章」を制定し、障害者の採用および雇用環境の整備に積極的に取り組んでいます。
2019年7月には、精神・知的障害者の雇用拡大を目指して、「キリンオフィスサービス」を設立しました。同社は障害者雇用促進法に基づく特例子会社制度のグループ適用の認定を取得し、グループ本社における幅広い業務を支援することで働き方改革の推進にも寄与しています。
グループ経営人材の育成
成長戦略を推進する人材を計画的に育成
将来のキリングループ各事業の中核を担い、成長戦略を推進するグループ経営人材の育成に向けて、人材マネジメント体系の整備を進めています。具体的には、まず各ポジションに求められる専門性やスキルの見える化と、現状についての棚卸しを行います。その上で業務を通じて社員の成長を加速させ、各種育成プログラムを通じて能力向上を図り、戦略実現のための必要な人材を計画的・安定的に育成する仕組みを整備しています。
また、高い成果発揮が期待される人材に、新たな仕事や困難な仕事に挑戦する機会を前倒しで提供し、能力と実力に応じた配置を行うことで、グループ経営人材の早期育成を図っています。例えば、ミドル層からグループ会社のトップ層へ登用しているほか、キリンビールにおいては年功によらず支社長や支店長への登用を積極的に行っています。
COLUMN
社長がハンズオンで経営人材を育成する「社長塾(布施塾)」を開講
キリンビールでは、布施社長がハンズオンで経営人材を育成する「社長塾(布施塾)」を2018年から開講しています。社長塾(布施塾)は「リーダーとしてのマインド・志(心)と、リーダーシップ(行動)の強化」に主眼を置くもので、受講者は、20代後半~30代前半の若手総合職社員の中から、成長意欲と高いポテンシャルを有する層を順次選抜しています。
各受講者は、日常業務では対面する機会の少ない社長と、会社の現状や将来について深く議論することで、そこで得たさまざまな学びや気づきを成長意欲の向上や主体的かつ積極的な自己変革・自己啓発につなげています。これまでに4期(1期当たり半年間)開催して70名を超える卒業生を輩出しており、これら若手の多くは、将来へのビジョンや達成すべき目標をもってさまざまな部門で活躍しています。
挑戦する企業風土の熟成
多様な人材が自ら挑戦できる環境を整備
多様な能力をもつ人材が、その可能性を十分に発揮するためには、人材を育てる企業風土、すなわち社員一人ひとりが、失敗やリスクを恐れることなく、主体的な挑戦を通じて成長できる環境が重要です。
リーダー層に対しては、若手社員を対象とした成長実感や面談実施状況に関する各種アンケートの結果を定期的に知らせることでリーダーとしての育成能力向上を図っています。また、キリンホールディングスと主要事業会社のトップリーダーを対象に、2017年から「リーダーシップ強化プログラム」を展開しており、年2回の360°サーベイと外部コーチによるコーチングを活用して育成マインドの高い組織風土への変革に取り組んでいます。
一方で、社員が主体的に挑戦できる環境の整備にも注力しています。2019年は主要事業会社の総合職社員を対象にキリンホールディングスへの転籍希望者を募集し、応募した約1,100名が2020年4月に転籍しました。年功要素をなくして期待・役割と成果に基づき処遇する人事制度を通じて、社員自らがより高い役割に挑戦することや成長機会を広げることを期待しています。ほかにもMBA留学をはじめ、新興国の社会課題に取り組む留職プログラム、海外ビジネス体感プログラム、異業種ワークショップ、各種経営塾、スタートアップ企業への出向など、多様な挑戦する機会を提供しています。
また、「働き方改革」や「健康経営」など、挑戦するためのベースとなる労働環境の整備にも努めています。働き方改革では、育児または介護で時間に制約がある働き方を1カ月間疑似体験する「なりキリンママ・パパ」研修をグループ内で継続的に展開し、効率的な働き方を考える機会にしています。さらにテレワークによる自律的で創造的な働き方の実現や、最新テクノロジーを活用した作業改善による働きやすい職場環境の実現にも取り組んでいます。健康経営についても、「生活習慣病」「メンタルヘルス」「お酒との付き合い方」を主なテーマに設定して、2次検診の受診強化による健康促進や、ストレスチェック・組織診断結果の積極的な活用による組織の健全性維持の取り組み、「スロードリンク®」をスローガンとした適正飲酒の徹底といった諸施策を実施しています。
COLUMN
多様な働き方を体験する「なりキリンママ・パパ」研修を展開
営業部門の女性社員の創意で始まった「なりキリンママ・パパ」研修は、社員が「育児」「親の介護「パートナーの病気」のいずれかのシチュエーションを選択して、時間の制約や子どもの発熱といった突発対応を仮想体験しながら、1カ月間にわたり業務との両立を図る体験型研修です。
この研修の大きな目的は、多様な働き方に対する理解を深めるとともに、自身や組織の業務の進め方を見直し、業務効率の向上につなげることにあります。「なりキリン」実施者の時間外労働時間は、対前年同月比で平均60%以上の削減を実現しています。2019年からは、実施範囲を従来の本社や一部の営業拠点からキリンホールディングス、キリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンの全国の事業所へ拡大。35%を超える33事業所が実施しました。キリングループでは、「2021年までに全事業所で展開する」ことを目標にこの取り組みを継続していきます。
社員個々の挑戦を応援し続ける
KV2027の実現はキリングループにとっての大きな挑戦ですが、環境変化に向き合うことは個々の社員のキャリア形成にとっても重要なテーマであると私は考えています。
キリンホールディングスや国内の事業会社でも、新卒一括採用と終身雇用による同質性を前提としたこれまでの環境から、キャリア採用者、再入社社員なども増えて多様性を重視する時代に変化しています。これからは、会社が変わるから変わらねばならないという姿勢ではなく、社員一人ひとりが、大きな環境変化の中で自らの自律したキャリア形成に向けて良い意味でどん欲に挑戦することが必要になっていくはずです。
自ら発展し続けようとするすべての社員にキリングループは成長の機会を積極的に提供していきます。人には無限の可能性があり、人は仕事を通じて成長できると私は確信しています。
キリングループは、これからも無形資産である「人材・組織」の強化に積極的に投資し、持続的な成長に挑戦していきます。