2010年11月5日
第三者委員会の報告について
当社では、連結子会社メルシャン株式会社(コード番号 2536 以下、メルシャン社)の水産飼料事業における過去の不適切な取引を受け、6月11日に発表のとおり第三者委員会を設立し、メルシャン社を含むグループ各社の内部統制状況の調査・再点検を実施してまいりました。
その結果につき、このたび第三者委員会において、今後のグループ全体のガバナンスのあり方に関する提言を含めた報告書がとりまとめられ、本日開催の当社取締役会において報告がなされました。その要旨につき、下記の通りお知らせ致します。また、報告書の全文につきましては、添付資料をご参照ください。
当社は、報告書の内容を真摯に受け止め、メルシャン(株)を含むグループ子会社ガバナンスのあり方を再点検し、上場会社を含む国内外のグループ子会社におけるリスクの把握・対応をより徹底して行うことにより、不祥事の再発防止に努めてまいります。
記
2010年11月5日
キリンホールディングス第三者委員会報告書(要旨)
- キリンホールディングス第三者委員会
- 委員長 郷原信郎
- 委員 梶川 融
- 橘川武郎
1 目的
当委員会の目的は、キリンホールディングス株式会社(以下、KH社)の連結子会社であるメルシャン株式会社(以下、ME社)の水産飼料事業部における架空・循環取引という不祥事について、KH社のそれまでの対応に問題がなかったか、それに関する法的・社会的責任が発生するかを検討するとともに、今後、キリングループ内において再発を防止するための対策を検討することである。
2 親会社の法的、社会的責任の一般的内容
親会社と子会社はあくまで別の法人であり、子会社側からの報告を放置したとか、その報告から問題を発見できたのに見逃したといった事情のない限り、原則として子会社の不祥事について親会社取締役が会社法上の善管注意義務違反の責任を問われることはない。
会社法上の企業集団に対する内部統制体制の構築義務についても、構築する内部統制の具体的な内容については、一般的に取締役に広い裁量があると考えられる上、上場子会社については少数株主の利益保護の見地から子会社の独立性確保は正当化され、実際上も親会社の過度の介入は困難である。親会社が、上場子会社に対して緩やかな統制の方針を採用したとしても、直ちに内部統制構築義務違反を問われることはない。
金融商品取引法上は、重要な事項に虚偽記載等のある内部統制報告書を提出した場合は取締役が民事・刑事の責任を負う可能性がある。しかし、子会社の内部統制の重要な欠陥が、直ちに親会社にとって企業集団全体の内部統制の重要な欠陥となるわけではない。
法的責任を問われる余地がない場合であっても、企業会計が連結決算中心となった現在では、子会社の不祥事について親会社に対して厳しい社会的批判が行われることが珍しくない。しかし、ME社は、親会社の事業の一部門のような完全子会社とは異なり、KH社の株式保有比率はわずかに過半数を超える程度で、しかも独自のブランドで社会的に評価・判断される存在であり、独立した上場企業として証券市場に対する責任も負担しているのであって、親会社側の管理・監督の程度には限界がある。
3 KH社の法的、社会的責任の検討
当委員会は、関係資料の検討及び関係者のヒアリングによって、KH社におけるグループ企業に対するガバナンス体制とME社に対する管理・監督の状況を調査した。KH社では、上場会社であるグループ企業に対しては、グループ管理の基本規定上、特別の地位を与え、その独立性を尊重するという方針を採っているが、上場子会社であるME社に対しても、一定のガバナンスを働かせる仕組みは構築していた。また、本件不適切取引の疑いがME社からKH社に対して報告されていた形跡はなかった。
上記2で述べたところに照らし、ME社内でも限られた者しか疑いを抱いていなかった本件不適切取引を察知できなかったことについて、KH社の取締役が法的責任を問われることはない。また、KH社がME社に対して採っていたガバナンスの仕組みは、上場子会社に対する内部統制として裁量を逸脱した不適切なものとは言い難い。さらに、本件不適切取引は、KH社連結決算への影響の大きさや、幹部社員及び取引先との共謀によって行われた統制の限界の問題とも考えられること等に照らすと、KH社の内部統制報告書における重要な事項の虚偽記載との評価につながるものではないと思われる。したがって、KH社の取締役に本件問題についての法的責任は生じないと考えられる。
また、本件は、親会社としての一般的対応によっては防止及び早期発見が極めて困難だった問題であり、KH社の対応が、上場子会社に対する親会社側の対応として特に問題があったとは認められず、企業としての社会的責任を問われる余地もないものと考える。
4 子会社不祥事防止のための対策の検討
責任という観点から離れ、問題の発生及び拡大の経過の中においてKH社としてどのような対応が可能であったかを、現時点において、ME社買収の経緯、同社水産飼料事業部及びその事業の特質、同事業部をめぐる過去の事件等を含め、既に明らかになっているすべての事実を前提に考えることを通して、グループ企業における不祥事防止のための対策を検討した。
KH社がME社の買収時及びその後に取った対応は、日本企業の対応としては一般的なものであり、特に問題とは言えないが、再発防止の観点からは、不適切取引の背景・原因となった事業及び取引関係の特殊性、ME社水産飼料事業部の特殊性等の要因をリスク要因として認識した上で、その後の発生事象に対応することなどが、重要な検討課題となる。
同種の子会社不祥事の再発防止のためのアプローチとして、管理・監督の一般的強化という方法には、上場子会社の場合、証券市場に対して子会社の経営者自らが責任を負っており、その経営の独立性、自立性への十分な配慮が必要となることを考えると、限界がある。そこで重視すべきなのが、買収段階及び買収後の段階におけるリスクの把握及びリスクに応じた対応である。上場子会社との関係においても、不祥事発生のリスクとして認識できる要因が存在しているときには、親会社から子会社に対して、リスク対応として一般的な管理・監督のレベルを超えた介入が行われることが許容される場合もあるだろう。
まず、買収対象企業全体や事業部門ごとのリスクについて出来るだけ把握し、それを買収の可否の判断に反映させるとともに、買収によって子会社化した後においてリスクの大きさに応じた管理・監督の強化に関する基礎的な情報として活用することである。加えて、買収後においても、買収時に把握したリスクに関する情報を十分に活用してリスクのレベルを把握し、リスクが増大したと判断できる事象が発生した場合には、それに応じて当該子会社に対する管理・監督を強化していくことが必要となる。
5 再発防止に向けての今後の取組みの提案
以上の検討を踏まえ、以下を提言する。
- (1)グループガバナンス全体についての再確認と上場子会社との間でのガバナンス、コンプライアンスについての連携強化
- (2)企業買収時のリスク把握のための調査の抜本的見直し
- (3)子会社リスクに対応する部門への買収時以降のあらゆるリスク情報の集約
- (4)子会社に対するリスクの大きさに応じた対応
以上