2012年3月27日
<参考資料>品質工程改善のためのビール酵母の総合的基盤解析技術の開発
~「2012年度農芸化学技術賞」を受賞~
キリンビール株式会社(社長 松沢幸一)の酒類技術開発センターは、キリンホールディングス株式会社(社長 三宅占二)のフロンティア技術研究所と共同で、ビール酵母を遺伝子、遺伝子発現、タンパク質、代謝物、細胞形態などの表現型の各レベルで分析し、その結果を総合的に解析する「品質工程改善のためのビール酵母の総合的基盤解析技術」を開発しました。
この研究成果が、ビールの安定かつ、品質向上のための技術を確立した点で高く評価され、日本農芸化学会より「2012年度農芸化学技術賞」を受賞しました。
1990年代半ば以降から、様々な特徴や機能性を持つ発泡酒や新ジャンルの商品が開発されてきました。このような商品の登場により、発酵中にビール酵母が置かれる環境も大きく変化してきました。麦芽の使用比率の変化や、麦芽以外の原材料を用いることで、従来のビール製造では想定できなかった発酵遅延やオフフレーバー※1などの課題が発生しました。
- ※1 ビールにとって好ましくない香り。
一方、日本で主流となっている色が淡く透き通ったピルスナータイプのビール醸造で使用する下面発酵酵母は、一般的に食品工業で用いられる上面発酵酵母と異なり遺伝学的特性が複雑です。そのために、上面発酵酵母で解析されてきた知見では新たな課題解決に必要なデータを十分に得ることができず、原因を推定することが困難でした。
本研究では、近年、飛躍的に発展してきた遺伝子、遺伝子発現、タンパク質、代謝物、表現型の各レベルの網羅的な解析技術を駆使して、下面発酵酵母の複雑な特性を解析し、品質や工程を改善するために必要な総合的基盤技術を開発しました。これらの技術を用いて、実際にビール、発泡酒、新ジャンルの発酵工程で発生する各種課題に仮説に基づいた解決策が取れるようになり、本技術がビール類の安定的な生産や品質向上に有効であることを示しました。
【ビール酵母の総合的基盤解析技術の開発例】
①遺伝子レベルの解析
- SNPs※2、パルスフィールドゲル電気泳動※3、DNAマイクロアレイ※4を活用した菌株識別解析技術などにより、酵母工場配布の菌株確認に活用し、品質向上に役立てる。
- ※2 一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphisms)の略。この情報を基に特定の領域の塩基配列の違いにより、酵母株を識別することができる。
- ※3 染色体をその大きさによって分離する方法であり、染色体の違いにより、酵母株を識別することができる。
- ※4 スライドガラスのような担体にDNAを高密度に固定したもので、数万個の遺伝子発現レベルの挙動を一度の実験で調べることができる。
②遺伝子発現レベルの解析
- DNAマイクロアレイを用いたSc型とLg型のオーソログ遺伝子※5の発現解析技術などにより、課題発生のメカニズム解明に活用。
- ※5 下面発酵酵母は、同じ細胞の中にパン酵母に由来するSc型と、ワイン酵母に由来するLg型の2種類の遺伝子が共存しており、その重複する部分を指す。
③タンパク質レベルの解析
- 部分精製したタンパク質から遺伝子を同定する技術により、香気成分である高級アルコールなどの生成メカニズムの解明に活用。
④代謝物レベルの解析
- 細胞内代謝物の濃度で酵母の生理状態を把握する技術により、課題発生の仮説構築に活用し、工程改善に役立てる。
⑤表現型レベルの解析
- 細胞形態の定量値を測定する技術により、酵母の生理状態を予測し、品質管理や工程改善に活用。
ビール酵母の総合的基盤解析技術の活用は、様々な生活スタイルや価値観にマッチした新商品を開発する際に生じる課題解決にも有効となります。また、ビール、発泡酒、新ジャンルだけでなく、様々な発酵食品製造への応用が期待されます。
キリングループは「おいしさを笑顔に」をグループスローガンに掲げ、いつもお客様の近くで様々な「絆」を育み、「食と健康」のよろこびを提案していきます。