[ヘルスサイエンス領域]

『脳機能』をターゲットとした共同研究プロジェクトを開始

~キリンホールディングス株式会社と株式会社ファンケル~

  • 研究開発

2020年01月30日

キリンホールディングス株式会社

当社は、これまでキリン独自素材の乳由来成分「βラクトリン」について研究を進めてきましたが、研究を進める過程で「βラクトリン」である「GTWYペプチド」以外のWY配列を有する認知機能改善ペプチドを確認しました。今後の可能性も含めて、これらの総称を「βラクトペプチド」とすることし、2020年12月以降の研究成果に関する発表については、「βラクトリン」のことを「βラクトペプチドの1つであるGTWYペプチド」と表記します。

2020年12月24日(木)

キリンホールディングス株式会社(社長 磯崎功典、以下キリン)は、2019年に資本業務提携をした株式会社ファンケル(社長 島田和幸、以下ファンケル)と、『脳機能』をターゲットとした共同研究プロジェクトを2020年1月から開始しました。
今回、両社のこれまでの脳機能に関する研究成果を共有し、効率的に新たな価値創造に向けた共同研究プロジェクトが実現しました。今後は両社の強みを生かしたさまざまな取り組みを本プロジェクト内で進め、シナジー効果を創出していきます。

本共同研究プロジェクトが目指すもの

以前から両社はそれぞれ脳機能研究の分野において、機能性素材のメカニズムから臨床試験に至る「認知症予防」に向けた研究を進めてきました。認知症の発症メカニズムは複雑であり、現在まだ根治療法もなく、その予防法への取り組みが重要とされています。また、予防法にはさまざまなアプローチがあると考えられています。
両社が持つ素材は、脳機能に対して異なったメカニズムで働きかけるものです。これらを応用して共同研究することで、従来にない効果を持つ認知機能の維持に向けた製品やサービスを開発することが期待できます。共同研究のスタートとして、2020年内に、両社の素材と技術を活用し、認知症予防に向けた臨床試験を開始します。その結果を生かして、3年以内に認知症予防機能を持った新たな製品やサービスを開発することを目指します。

両社における今までの研究成果

現在認知症の治療法は確立されていませんが、認知症を発症する20年以上前から「βアミロイド」や「リン酸化タウタンパク質」などの異常なタンパク質が脳の中に蓄積されることで脳が病変し、認知症を引き起こすことがわかっています。そのため、認知症は早期発見、早期予防が有効であると言われています。
両社では、認知機能に関して毎日安心して摂取できる食品由来成分の研究を進め、「フェルラ酸」、「熟成ホップ由来苦味酸」、「βラクトリン」などの有望な機能性素材を発見してきました。

キリンは、ビール苦味成分として知られる「熟成ホップ由来苦味酸」が、認知機能の1つである記憶想起力を改善することを確認しました(図1、2)。試験は45歳から64歳の健常中高年を対象とし、語流暢性試験※1、および日常記憶チェックリスト※2を指標として実施しました。

  • 両社における今までの研究成果

    著者:Fukuda T, Obara K, Saito J, Umeda S, Ano Y
    タイトル:Effects of Hop Bitter Acids, Bitter Components in Beer, on Cognition in Healthy Adults: A Randomized Controlled Trial.
    雑誌名:Journal of Agricultural and Food Chemistry, 68(1): 206-212, 2020

さらに、慶應義塾大学と共同で乳由来のペプチドである「βラクトリン」を含む食品について、50歳から75歳の健常中高年を対象に行った継続摂取試験において、有意に記憶力を改善することを確認しました(図3)。

  • 図3 視覚性対連合記憶試験 ※3

    著者:Kita M, Kobayashi K, Obara K, Koikeda T, Umeda S, Ano Y.
    タイトル:Supplementation With Whey Peptide Rich in β-Lactolin Improves Cognitive Performance in Healthy Older Adults: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Study.
    雑誌:Frontiers in Neuroscience, 13: 399, 2019

ファンケルでは、「フェルラ酸」を含む食品を継続摂取することで、軽度認知症と判定された65歳以上の高齢者に対して認知機能の改善を確認しました(図4)。「フェルラ酸」は、米ぬかや小麦などの食品に多く含まれるポリフェノールの一種で、抗酸化作用を持つ成分です。

  • 図4

キリングループは、長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027(以下、KV2027)」を策定し、「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV※5先進企業となる」ことを目指しています。KV2027の実現に向けて、「食領域」(酒類・飲料事業)と「医領域」(医薬事業)で幅広く事業展開するキリングループならではの強みを生かした「医と食をつなぐ事業」の具体化を進める中で、ファンケルと資本業務提携しました。今後も両社の強みを生かしたさまざまな取り組みを進めていきます。

キリングループは、自然と人を見つめるものづくりで、「食と健康」の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献します。

用語解説

  1. 語流暢性試験
    臨床や心理学的研究で使用される前頭葉機能検査の1つで記憶想起機能を評価する。
  2. 日常記憶チェックリスト
    認知機能低下や記憶障害によって日常生活上起こりうる問題点を標準化した質問票。
  3. 視覚性対連合記憶試験
    何かの手がかりを利用して再生する記憶機能を評価する試験。75歳以上の運転免許更新時に行う認知機能検査項目の1つ。
  4. MMSE(Mini Mental State Examination)スコア:
    認知障害の測定を目的とした神経心理テストの1つ。点数が低いほど認知機能に何らかの障害がある可能性が高いとされる。
  5. CSV
    Creating Shared Valueの略。お客様や社会と共有できる価値の創造。

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