ヒトiPS細胞※1由来の免疫細胞を組み込んだ3D培養ヒト皮膚モデル※2を世界で初めて※3作製
~ヒト皮膚に近い環境で炎症応答評価を確認。老化やアレルギーなどの炎症が関わる症状の再現を探索~
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- 研究・技術
2024年9月11日
キリンホールディングス株式会社
キリンホールディングス株式会社(社長 COO 南方健志、以下キリン)のキリン中央研究所(所長 矢島宏昭)は、株式会社ファンケル(社長 島田和幸、以下ファンケル)と順天堂大学大学院医学研究科・環境医学研究所(所長 髙森建二、以下順天堂大学)との共同研究講座「抗老化皮膚医学研究講座」に参画し、ヒトのiPS細胞から炎症応答を制御する免疫細胞「マクロファージ」に安定的に分化※4させる方法を確立しました。また、ヒトiPS細胞由来のマクロファージを組み込んだ3D培養ヒト皮膚モデルを世界で初めて作製し、炎症性刺激を与えたときに3D培養ヒト皮膚モデル内のマクロファージが応答することも確認しました。当研究成果は9月4日(水)~9月7日(土)にポルトガルで開催された第53回欧州研究皮膚科学会(European Society for Dermatological Research)で発表しました。
キリンは今後も免疫機能と皮膚症状の関係性に着目し、3D培養ヒト皮膚モデル作製をはじめとする、さまざまな皮膚研究を進め、皮膚症状のメカニズムの知見を創出することで「肌の健康」の課題解決とともに、ヘルスサイエンス事業の拡大を目指します。
※1 ヒトの体細胞を初期化することで、さまざまな組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力をもった人工多能性幹細胞
※2 ヒト皮膚線維芽細胞とヒト表皮ケラチノサイトを積層させて作った、3D構造を有する人工皮膚モデル
※3 Medline, Embase, BIOSIS,医中誌WEBに掲載された原著論文に基づく(2024年8月30日(金)調査実施 ナレッジワイヤ調べ)
※4 iPS細胞などが、特定の性質や機能を持った細胞に変化する現象
研究背景
本研究は、ファンケルと順天堂大学が2018年6月から進めていた共同研究講座「抗老化皮膚医学研究講座」に、キリン中央研究所が2021年6月から参画したことをきっかけに始まりました。
皮膚はさまざまな外部刺激から私たちの身体を守る防御器官です。一方で、日常の外的・内的ストレスにより皮膚がダメージを受け続けると慢性的な炎症状態となり、皮膚の立体構造が壊れ、外部刺激から防御する皮膚のバリア機能が低下するなどの現象が起こります。その結果、乾燥肌やかゆみなどのさまざまな皮膚トラブルが発生します。
特に、老化やアレルギーなど昨今増えている皮膚トラブルには炎症状態が深く関わっています。炎症により皮膚の立体構造が壊れ、皮膚本来の機能が失われるメカニズムを解明することは、炎症状態を改善し、皮膚トラブルに対処する方法を見いだすことにつながります。
そのため、立体構造を持つ3D培養ヒト皮膚モデルを使い、炎症状態を再現することが皮膚科学研究業界において強く求められてきました。しかし、炎症応答を制御するマクロファージを3Dヒト皮膚モデルに組み込むことは技術的に難しく、炎症状態の評価は実際のヒトの皮膚と比較して再現できる組織構造や機能が限定的である、平面的な2Dヒト皮膚モデル※5などで行っていました。
※5 ヒト皮膚線維芽細胞やヒト表皮ケラチノサイトなどを培養容器の底面に平面的に培養した、単層状態のモデル
研究成果(概要)
キリンは長年にわたる免疫機能の研究実績を活用し、「抗老化皮膚医学研究講座」の中で、ヒト皮膚の炎症応答を評価・制御できる手法の開発を行ってきました。その成果として、ヒトのiPS細胞を使ったマクロファージの安定的な分化誘導方法を確立しました。さらに、3D培養ヒト皮膚モデルの構造を壊すことなくマクロファージを組み込む方法を世界で初めて確立し、炎症性刺激を与えたときにマクロファージが応答することも確認しました。
本モデルを活用することで、従来は難しかった、老化やアレルギーなどの炎症が関わる症状を再現できる可能性があります。
キリングループは、自然と人を見つめるものづくりで、「食と健康」の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献します。
研究概要について
研究成果1
キリンの長年の免疫研究技術を応用し、ヒトiPS細胞からマクロファージに大量かつ均質に分化させる方法を確立
∙ヒトのiPS細胞を大量に増殖させて多数のストックを作製することで、同一のロットから分化誘導した均一な性質を持つマクロファージを作製しました。
研究成果2 ※世界初の成果
技術的に難しいとされていた、分化させたマクロファージを3D培養ヒト皮膚モデルの構造を壊すことなく組み込むことに世界で初めて成功
∙マクロファージをヒト皮膚線維芽細胞と混合して3D培養を行い、真皮層を構築しました。
∙真皮層上にヒト表皮ケラチノサイトを播種して、さらに3D培養を行い、マクロファージを組み込んだ真皮層、表皮層から構成される3D培養ヒト皮膚モデルを作製しました(図1)。
研究成果3
作製した3Dヒト皮膚モデルで炎症応答を確認
∙マクロファージを組み込んだ皮膚モデルが炎症性刺激に応答するか検証するために、2種類の刺激剤(LipopolysaccharideならびにMethylparaben)※6を添加し、炎症応答の指標である炎症性サイトカイン類※7の放出量を測定しました。
∙マクロファージを組み込んでいない3D培養ヒト皮膚モデルと比較して、マクロファージを組み込んだ皮膚モデルでは、LPSまたはMPの添加24時間後の培養上清中に炎症性サイトカイン類の放出がIL-6は約3倍、TNFαは顕著に上昇することが認められました(図2)。このことから、マクロファージを組み込んだ皮膚モデルが炎症応答を評価できることが分かりました。
※6 刺激剤について・・・Lipopolysaccharide(LPS)は、マクロファージに作用し炎症応答を促進する働きを持ち、免疫応答や炎症反応の調節において重要な役割をもつ炎症性サイトカイン類を放出させることが知られている。Methylparaben(MP)は、皮膚刺激性を持つ防腐剤成分であり、化粧品や医薬品に広く使われているが、敏感肌への刺激性があると言われている。
※7 炎症性サイトカイン類について・・・炎症応答が起こると炎症性サイトカインInterleukin-6(IL-6)やTumor Necrosis Factor α(TNFα)などが、細胞から放出されることが知られている。
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