「生への畏敬」によって培われた「統合的アプローチ」を強みに、ポジティブインパクトを世界に広げる

  • 環境

2022年09月27日

  • 「生への畏敬」によって培われた「統合的アプローチ」を強みに、ポジティブインパクトを世界に広げる

食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV※1先進企業となることを目指すキリングループは、地球環境の問題解決に力を注いでいます。SBTイニシアチブ※2にてネットゼロの温室効果ガス削減目標の認定を世界の食品企業で初めて取得し、TNFD※3のLEAP※4フレームワークを適用した自然資本の情報開示がTNFD事務局から世界初と称されたことは、どちらもグローバルな高い評価の証です。また、2022年11月開催予定の国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)や12月開催予定の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)に向けて、SBT Networkが製作するビデオメッセージに、ネスレやユニリーバ、ダノンなどの世界の先進企業6社のトップの1人として、当社CEOの磯崎功典が出演予定です。

  1. Creating Shared Valueとは、共有価値の創造
  2. Science Based Targetsイニシアチブの略。CDP、国連グローバル・コンパクトWRI(世界資源研究所)、WWF(世界自然保護基金)の4団体が2015年に共同で設立した国際イニシアチブ
  3. 自然関連財務情報開示タスクフォース
  4. ”場所”に焦点を当て、自然資本への依存や影響を評価するプロセスで、“Locate”, “Evaluate”, “Access”, “Prepare” の略語

このようにキリングループの環境経営が世界から認められるようになった背景にあるのは何なのか。当社グループの環境への取り組みを振り返りながら、その実績を培った哲学や独自のアプローチについてお伝えします。

「統合的アプローチ」を掲げるキリンの環境経営

2019年、私たちキリングループは長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027(KV2027)」を策定し、2027年までに世界のCSV先進企業を目指すことを宣言しました。「酒類メーカーとしての責任」を前提に、「健康」「コミュニティ」「環境」の課題の解決に取り組むことをCSVパーパスとして掲げ、社会と共に価値を創造しようとしています。

  • 図:CSVパーパス

世界のCSV先進企業を目指すことを宣言してから約3年。私たちが掲げるCSVパーパスのひとつである「環境」において、世界で認められ始めています。

気候変動対策の観点では、2020年2月に改訂した「キリングループ環境ビジョン2050」で、バリューチェーン全体のGHG排出量をネットゼロにするという長期目標を策定・公開しました。国内外で多くの企業が「2050年ネットゼロ」目標を掲げていますが、当社は本年8月、SBTイニシアチブが定めるネットゼロの基準を満たすと認定された世界初の食品企業となりました。

また生物多様性の損失が危惧される昨今では、自然資本に関わる企業のリスク管理が重視されています。TNFDは、2022年3月に自然資本および生物多様性の観点から企業に開示を求める枠組み(β版v0.1)を公表しました。この中で提唱されたLEAPといわれるフレームワークに準じた開示を、当社はその約4か月後となる7月6日に環境報告書で公表しました。これは世界初の事例としてTNFDのLinkedInで紹介されました。

「世界初」という評価によってグローバルに認められつつあるキリンの取り組みですが、この取り組みを支えているのが「統合的(Holistic)アプローチ」です。私たちは地球環境に関わる重要課題として「水資源」「気候変動」「容器包装」「生物資源」の4つを掲げています。私たちが重視する統合的アプローチとは、これら4つは決して独立した課題ではなく、相互に関連し合っているという考え方に基づいています。

  • キリングループ環境ビジョン2050 ポジティブインパクトで、豊かな地球を

環境への取り組みの転換点と統合的アプローチの形成

当社が「統合的アプローチ」を初めて世に示したのは、2013年に策定した2050年に向けた長期戦略「キリングループ長期環境ビジョン」でした。しかし、このアプローチの原型は、遡ること1990年代初頭から形成され始めています。

ブラジル・リオデジャネイロにて開催された地球サミットの前年である1991年、私たちは「キリングループの地球環境問題への取り組みの基本方針」を策定。これを契機にそれまでの公害対策中心の取り組みから地球全体を視野に入れた活動へと重点をシフトし、1993年には「地球環境に配慮する企業グループを目指す」という方針の下、経営理念を改訂しました。以来、私たちは地球全体を視野に入れた活動を推し進め、現在掲げている「水資源」「気候変動」「容器包装」「生物資源」という4つの重要課題も1990年代から継続してきた活動をベースとしています。

地球サミットの翌年となる1993年には、キリンビール栃木工場・北陸工場において「ふるさとの森づくり」と題した植林を実施。この取り組みは、1998年から豊かな森を育むと同時に水資源を保全する「水源の森活動」に継承されて、今も続いています。

環境に関わる情報開示にも積極的に取り組んできました。環境報告書の発行を開始したのは1994年。地球環境というグローバルな視点から1996年からは英語版の刊行も始め、1999年以降は現在環境報告書のスタンダードとなっているGRI※5に準ずる枠組みを採用しました。GRIの初版ガイドラインが示されたのは2000年ですから、私たちは前年の草案の段階からGRIの基準を採用していたのです。

  1. Global Reporting Initiative。企業、政府、その他の組織が気候変動、人権、腐敗などの問題に対する影響を理解し、伝達するのを支援する国際的な独立した標準化推進団体。

また、地球温暖化防止京都会議(COP3)が開催された1997年には、低炭素・節水先進のモデル工場としてキリンビール神戸工場を竣工。環境に配慮した工場の新設や情報開示への積極性が評価され、京都会議では日本の代表企業の一社として環境対策を発表するに至ります。

その2年後となる1999年に策定した「キリングループ環境方針」では、地球環境の保全を経営の重要課題のひとつとして認識し、持続可能な社会の構築を推進していくことを宣言。当時、京都議定書で国が掲げていた2010年までのGHG削減目標が1990年比-6%のところ、私たちはそれよりも大幅に高い-25%を目標値に掲げ、気候変動対策を加速させました。

これに先立つ1998年には、従来のガイドラインを改訂して、「環境に適応した容器包装等設計指針」を策定。グループのパッケージイノベーション研究所では包装容器の軽量化にも本格的に取り組み始め、従来は1本605gだったビールの大びんを457gに軽量化し、2003年までにキリンビールが製造する大びんすべてを軽量びんに移行させました。

そして、2010年に名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)を受け、2013年に「キリングループ持続可能な生物資源利用行動計画」を策定しました。生物多様性の保全活動を本格化させるとともに、水資源についても単なる節水からグローバルの視点で水リスク・水ストレスを把握した取り組みに転換。気候変動による農産物や水資源への影響の理解を深めるなど、私たちは環境問題を「統合的」な視点で捉え、相互作用をよく理解した戦略が必要性であることを理解しました。こうして策定したのが、2013年に発表した「キリングループ長期環境ビジョン」です。

統合的視点の土壌を培った「生への畏敬」という醸造哲学

私たちが4つの環境課題の相互性に気づき、「統合的アプローチ」の重要性を理解するに至った背景にあるのが、キリンビールに継承される「生への畏敬」という醸造哲学です。グループの祖業であるビール事業の原料である水とホップと麦芽、そのすべてが自然の恵みです。製造プロセスでは、麦汁に含まれる糖をアルコールに分解し、ビールの香味を酵母で決めていきます。この酵母は微生物であり、まさに“生”そのものです。

農産物という自然の恵みに依存するのみならず、製造プロセスも酵母という微生物の働きに依存するビールを製造するからには、生命に敬意を払い、生命の力を謙虚に学ばなければいけません。これが「生への畏敬」の考え方であり、この考え方は1952年にノーベル平和賞を受賞したドイツの哲学者、アルベルト・シュヴァイツァー博士の思想に基づきます。

「われは、生きんとする生命にとりかこまれた、生きんとする生命である」——。

シュバイツァー博士が残した言葉は、私たち人間も自然界にある生命の一部であり、動植物も微生物も、すべてが相互に関連し合っていることを示唆しています。また、すべてが関連し合っている以上、自社の成長だけを追求していては、先はない。シュバイツァー博士の言葉は、周囲と手を携え共に価値を創造していくという、キリンのCSV経営の根幹にも繋がっています。

そして、私たちが多様な環境保全の取り組みを科学的に積み重ねることができた理由も、自然を尊び自然から学ぶ大切さを提唱する「生への畏敬」にあります。生命を学ぶことは生命科学の追究であり、生命科学の追究は技術力や研究開発力を重視するキリンの組織風土を育みました。環境に配慮した先進的な工場設計も、包装容器の軽量化も科学技術の産物であり、科学を重視する風土がなければあり得ませんでした。

冒頭にご紹介したTNFDのLEAPフレームワークを適用した「世界初」という開示についても、世界に数多ある企業の中から先陣を切れたのは、そもそも当社が統合的アプローチの姿勢で環境問題に取り組んできた実績があったからだと考えています。気候変動のリスクと機会の評価と開示のガイダンスであるTCFD※6のスコープを広げ、生態系全体に関わるリスク評価に進化したのがTNFDですが、この包括的な視点はキリンの統合的アプローチと一致します。だからキリンはいち早く、TNFDに準じた情報開示ができたのです。

  1. 気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)。金融安定理事会(FSB)が設立した、気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するタスクフォースのこと。

自社の枠組みを超えた、ポジティブインパクトの創出へ

気候変動が及ぼす農産物への影響はすでに顕在化し始めており、2015年に採択されたパリ協定でも2017年に公表されたTCFDの最終報告書でも、その危機的状況は緊迫感をもって伝えられました。自然の恵みを原料とする食品企業は、地球環境における“炭鉱のカナリア”です。

そこで私たちは2013年策定の「長期環境ビジョン」を大幅に見直し、2020年に改訂版である「キリングループ環境ビジョン2050」を発表しました。地球環境を取り巻く危機が顕在化を始めた今、ネガティブなインパクトを最小化し、ニュートラルにするだけでは不十分です。世界のCSV先進企業を目指すキリンはニュートラルな状況をいち早く実現させるともに、社会全体が脱炭素化できるよう、自社の枠組みを超えたポジティブインパクトの創出を目標に掲げています。

直近の具体的な事例としては、生物多様性の損失を食い止め、回復させること(ネイチャーポジティブ)を目的に、海と陸の30%以上を健全な生態系として効果的に保全することを目指す国際的な取り組み「30by30」を受け、国内で環境省が主導する「生物多様性のための30by30 アライアンス」自然共生サイトの後期実証事業へ、メルシャンが経営するブドウ農園・椀子ヴィンヤードを対象に参加します。単なる森林保全等ではなく、事業として農産物の生産活動を行っている農園が環境省の試行認定の対象となるのは日本初です。

また、再生可能エネルギーに関わる取り組みでは、新たな再生可能エネルギー電源を自ら創出する追加性の考え方を重視し、キリンビール全9工場での大規模太陽光発電設備の設置に加えて、秋田県沖および千葉県沖の洋上風力発電事業を始める三菱商事洋上風力株式会社を代表とするコンソーシアムへの参画を発表しました。地域創生の面で協力を行い、再生可能エネルギーの拡大とコミュニティの発展に貢献していきます。

プラスチック関連問題対策においても他の企業との協業を進めています。三菱ケミカルと共同プロジェクトを開始し、ケミカルリサイクルによるPETのサーキュラー・エコノミーの確立を目指しています。現在の再生PETのほとんどを占めるメカニカルリサイクルでは、品質劣化により再生回数に制限がありますが、ケミカルリサイクルではPETを資源として恒久的に使い続けられます。使用済みPETボトルのみならず、様々なPET製品の回収から再生までの仕組みを構築し、プラスチックが循環する社会の構築を目指していきます。

  • 再生PET樹脂を使用したメカニカルリサイクルによる100%リサイクルPETボトル。PETボトルがPETボトルに生まれ変わることで、製造にかかわる石油由来樹脂使用量を90%削減。

受け継がれるDNAを発展させ、環境から世界のCSV先進企業に

地球環境に関わる課題は一社のみの力では解決は困難です。自社の枠組みを超えて他の企業と手を携えながら環境問題の解決に取り組む姿勢も、キリンの「統合的アプローチ」のあり方です。この「統合的アプローチ」という独自の姿勢を強みに、世界のCSV先進企業になるという目標を達成します。
そのことについて常務執行役員を務める溝内良輔は、こう話します。

「キリンの先進的な環境経営と統合的アプローチを可能にしたのは、グループの祖業であるビール事業の『生への畏敬』という哲学であり、それによって培われた技術力や研究開発力にあります。戦中戦後と長くキリンビールを率いた磯野長蔵元会長は社員を前に話をする際、必ず『本店、支店の諸君、そして工場の皆さん』と呼びかけたそうです。このエピソードが物語るのは、私たちがものづくりを重んじる企業であるということであり、より良いものを作るための設備投資や研究開発投資を惜しまなかったことがエネルギー効率の高い施設の展開や環境技術の開発にも繋がったということです。私たちキリンは今後もものづくり企業としてのDNAを継承・発展させ、世界のCSV先進企業・世界の環境先進企業として飛躍していきたいと思っています。」

プロフィール

溝内良輔

1982年キリンビール入社。市場リサーチ室長などを経て、2012年にキリンホールディングス株式会社経営企画部長。2015年常務執行役員ブラジルキリン担当。2017年からグループのCSV戦略を担当。

※所属(内容)は掲載当時のものになります。

価値創造モデル

私たちキリングループは、新しい価値の創造を通じて社会課題を解決し、
「よろこびがつなぐ世界」を目指しています。

価値創造モデルは、キリングループの社会と価値を共創し持続的に成長するための仕組みであり、
持続的に循環することで事業成長と社会への価値提供が増幅していく構造を示しています。
この循環をより発展させ続けることで、お客様の幸せに貢献したいと考えています。