人の営みと共存する自然資本の課題解決により、未来にポジティブなインパクトを生み出すキリングループの統合的アプローチ

2024年10月09日

  • 人の営みと共存する自然資本の課題解決により、未来にポジティブなインパクトを生み出すキリングループの統合的アプローチ

地球上のさまざまな環境課題は互いに関連し、影響を及ぼし合っています。例えば単一種・大量生産などの工業化された農業を行うことで生物多様性が失われ、土壌が痩せていきます。土壌が痩せると植物が育ちにくくなり、植物による炭素の吸収・固定化が行われにくくなります。炭素の吸収・固定化が行われなくなると、空気中のCO2濃度が増加して温暖化が進み、気候変動へと繋がります。気候変動によって気象パターンの変化が起こると、様々な災害を引き起こし、生態系の破壊や人々の生活に甚大な被害をもたらします。

このように自然界は複雑なネットワークにより成り立っています。そのため一つの問題解決を試みることで他の問題を引き起こしたり、悪化させる可能性があります。また、それらの影響は長い時間をかけて顕在化していきます。地球環境の課題には統合的なアプローチと、次の世代を見据えた長期的な視点をもとに進める必要があるのです。

キリングループは「ポジティブインパクトで、豊かな地球を」を重要なメッセージとした「キリングループ環境ビジョン2050」を策定しています。自然と人にポジティブな影響を創出することで、心豊かな社会と地球を次世代につなげることを目的としており、その実現のために「生物資源」「水資源」「容器包装」「気候変動」という4つの環境課題を統合的(holistic)にアプローチする活動を行なっています。これは様々な環境課題や人の営みが相互に関連しあっていることを理解することが大切という考えに基づいています。

今回はこうした活動の土台となるキリンの自然に対する考え方から、統合的アプローチが実際に地域の生態系や人々にポジティブな影響を生み出している例、長期的な視点や企業規模を活かした再生エネルギーの取り組み、次世代の若者とともに豊かな地球のめぐみを将来につないでいく活動について紹介します。

「生への畏敬」という醸造哲学が活動の土台に

キリングループが「統合的(holistic)」アプローチの重要性を理解する背景となっているのが、「生への畏敬」という醸造哲学です。グループの祖業であるビール事業の原料である水とホップと大麦、そのすべてが自然の恵みです。麦汁に含まれる糖をアルコールと炭酸に分解し、ビールの香味を決めるのも微生物である酵母です。

おいしいビールを製造するには、自然の生命に敬意を払い、生命の力を謙虚に学ばなければなりません。だからこそ、自然環境や生物多様性を大切にする想いと姿勢が、キリングループの企業文化として根付いているのです。

キリングループは、国際的なイニシアチブである「SBTイニシアチブ※1」において、世界の食品企業として初めてネットゼロの認定を取得しました。また、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)のLEAPアプローチ※2による自然資本の情報開示も世界初です。これらの成果は、キリングループが長い時間をかけて生物や自然から学び、環境活動に取り組んできた結果として世界から高く評価されています。

※1: SBTイニシアチブは「Science Based Targetsイニシアチブ」の略で、企業や金融機関が科学的根拠に基づき、温室効果ガスに対する排出削減目標を設定できるようにする国際的な団体。
※2: TNFDが提唱する自然関連のリスクと機会を評価・管理するためのアプローチ。Locate(発見)、Evaluate(診断)、Assess(評価)、Prepare(準備)の 4つのステップで構成される。

自然と人にポジティブな影響を生み出す統合的アプローチの実例

キリングループでは、事業活動に対して様々な環境課題やそれらのアプローチがどのように影響を与えるかということを「環境価値相関図」という形で示しています。「生物資源」「水資源」「容器包装」「気候変動」という4つの環境課題がどのような関連性を持ちながらポジティブなインパクトを生み出しているのかを、俯瞰して見ることができる図表です。その中で、統合的アプローチでポジティブなインパクトを生み出す「ランドスケープアプローチ」と「食料システムの維持・改善」という手法があります。

「ランドスケープアプローチ」は生物多様性世界枠組(GBF)が提唱する、原料生産地の多様な人間の営みと自然環境を総合的に扱い、持続可能な課題解決を導き出す手法です。「食料システムの維持・改善」は食を農業などの個別課題ではなく、食料生産、加工、流通、消費および廃棄に関わる一つのシステムとして捉える手法です。原料生産地にポジティブな影響を与え、原料の安定調達とブランド向上にも寄与するため、統合的なアプローチといえる手法であり、リジェネラティブ、つまり環境を再生させることにつながります。

キリングループは「ランドスケープアプローチ」をスリランカの環境再生型農業の支援、「食料システムの維持・改善」を日本のブドウ畑における生態系回復の評価および炭素貯蔵効果の研究として取り組んでいます。

生態系の回復と生産者の生活向上を実現させるスリランカの活動

「キリン 午後の紅茶」の茶葉はスリランカから輸入していますが、日本に輸入されているスリランカ産茶葉の約2割を使用しており、茶葉の生産における環境や人々へのインパクトに対して重責を担っています。そのため、環境を再生させる農業を通じて土地を豊かにし、生産者の労働環境やウェルビーイングを向上させる「レインフォレスト・アライアンス認証」取得の支援を2013年より行なっています。2022年末で、スリランカの認証取得大農園の約3割に相当する94の大農園が、この支援によって認証を取得しています。

ところが、この認証を取得するには手間も資金もかかることから、持続可能な農業を目指す意思があっても取得できない小農園を、切り捨てることになる問題が生じていました。そうした小農園が、自ら環境再生型農業(リジェネラティブ農業)を実施することができるようにするために、2023年から同認証機関と協力して行っているのが「リジェネラティブ・ティー・スコアカード」 の開発です。このスコアカードはレインフォレスト・アライアンスの環境再生型農業の定義に基づき、土壌の健全性、農園内の生物多様性の保全、生態系の回復、農園の人々の生活向上を促進する方法を提示しています。紅茶農園はスコアカードを使用することで、現在の農業の実施状況の評価と、環境再生型農業への移行に向けた改善点を明らかにすることができます。

さらに紅茶農園と周辺地域の持続性を高めるために、地中に浸透した雨水が湧き出る水源地「マイクロ・ウォーターシェッド」を保全する活動も2018年より行なっています。農園内にある「マイクロ・ウォーターシェッド」を柵で囲んで保全し、周囲にその地域固有の在来種を植林します。これにより、単一栽培の紅茶農園に植生の多様性を生み出すとともに、集中豪雨などで山の斜面から流出した土砂が水源地に流れ込むことを防ぎます。

このような統合的なアプローチにより、持続可能な茶葉の調達が可能になることはもちろん、生産地域全体の生態系を健全にし、そこで生活を営む人々の幸福に寄与し、社会的インパクトを生み出せます。

日本のブドウ畑の生物多様性の再生と炭素貯留効果を高める活動

キリングループでワイン事業を営むメルシャンの、長野県上田市の「椀子ヴィンヤード」では、長い間放置されて地域の課題となっていた遊休荒廃地を、地元の地権者や行政と協力しながら草生栽培のブドウ畑に転換し、生物多様性を回復するとともに、地域の人々が誇れる場作りを行ってきました。2014年からはキリンホールディングスとメルシャン、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構による共同研究が開始され、同ワイン畑の生態系調査を行っています。この調査により、草生栽培のブドウ畑が環境省のレッドデータブックに掲載されている絶滅危惧種を含む、昆虫168種、植物289種を確認しており、良質で広大な「草原※3」の機能を持っていることが明らかになっています。

これは事業を通じて「ネイチャー・ポジティブ」を創出した事例であり、2023年には環境省の生物多様性の高い地域である「自然共生サイト※4」において、事業として農作物を栽培している場所として初めての認定を受けました。また剪定したブドウの枝を炭化させ(バイオ炭)、土壌改良資材として活用することで土壌への炭素貯留効果や土壌の透水性を改善する活動を行うなど、環境再生型農業の知見も蓄積していきます。

さらに椀子ヴィンヤードでは、地域のNGOや小学生とともに絶滅危惧IA類のチョウであるオオルリシジミ唯一の食草であるクララを増やす活動の実施や、椀子ヴィンヤード近隣の塩川小学校の生徒を対象に環境教室を開催するなど、地域コミュニティとの連携や、子どもたちへ学びの機会の提供も行なっています。

※3: 「草原」は単位面積当たりの希少種の数が最も多く貴重。140年ほど前は国土の約 30%を占めていたが、現在は1%以下であり、「草原」そのものが希少となっている。
(参照)https://www.env.go.jp/content/000164774.pdf
※4: 「民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域」を国が認定する区域のこと。2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標「30by30(サーティ・バイ・サーティ)」に基づいた環境省の取り組み。
(参照)https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/kyousei/

これらスリランカの農園と椀子ヴィンヤードの事例はどちらも、地域の生態系を回復・再生させて自然との共生を行い、農家や地権者などと力を合わせて共創することで地域の活性化を行い、全体としてより良い未来へ向かっていく、まさにキリングループの統合的アプローチの実力を示す活動です。

未来に向けた長期的な視点と規模を活かした取り組み

環境問題は地球全体の生態系、気候、経済、人々の生活と広く影響を与えるため、未来へ向けた長期的な視点を持ち、インパクトを生み出さなければなりません。例えば、気候変動は数十〜数百年に渡って影響が出るため、CO2の排出削減や再生可能エネルギーの導入は長期の取り組みが必要です。キリングループでは再生可能エネルギーの導入にあたり、新たに再生可能エネルギーの量を増やす「追加性」や、発電設備の建設や運用が起こす負の影響を評価する「倫理性」を重視して活動を行っています。

キリングループは、2020年にRE100※5へ加盟し、2040年までに使用電力の再生可能エネルギー100%化を掲げています。オセアニアで酒類事業を行うライオンでは、2020年にオーストラリア初の大規模なカーボンニュートラル認証を取得した醸造会社となり、ニュージーランドでも2021年にカーボンゼロ認証を取得し、すでに達成しています。

キリンビールではすべての工場・営業拠点の購入電力を再生可能エネルギー100%としており、キリンビール全体の使用電力における再エネ比率は66%です。将来的にはキリングループの事業で使用する全ての電力を再生可能エネルギーに置き換え、早期のRE100達成を目指します。 また、キリンビール9工場、メルシャン藤沢工場、協和キリン宇部工場に、太陽光発電設備をPPAモデルで導入済です。

さらにキリンホールディングスは、日本最大級の洋上風力発電事業を行う三菱商事を中心とするコンソーシアムの協力企業として参画しています。このコンソーシアムは、秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖における発電事業者として選定されており、3地域の事業の最大発電出力は約169万kWで、約121万世帯の電力需要を補える大規模なプロジェクトです。このような企業ならではの規模を活かした取り組みで、日本政府が掲げる2050年カーボンニュートラルの主力電源化に大きく貢献することを目指しています。

再生可能エネルギーの導入は、長期的かつ社会に大きなインパクトを与える取り組みであり、キリングループが積み上げてきたナレッジや規模を活かすことで、確かな成果に繋げていける社会的に意義深いプロジェクトです。

※5: 「Renewable Energy 100%」の略称で、事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達することを目標とする国際的イニシアチブを指す。

次の世代を担う若者をエンパワーメントして未来を築く

未来へポジティブなインパクトを生み出す活動の一環として、次世代の若者とともに環境課題を考え対話を行う「キリン・スクール・チャレンジ」というプログラムを2014年から行なっています。この活動は文部科学省が主催する「青少年の体験活動推進企業表彰」で審査委員会奨励賞(大企業部門)を受賞しています。

2024年3月には「つながっている、わたしたちと世界」をテーマに、中高生が議論して同世代に伝えていくワークショップ「キリン・スクール・チャレンジ」を、こども国連環境会議推進協会と共同で開催しました。その中の「FSC®(Forest Stewardship Council)」ワークショップでは24名の中高生が集まり、持続可能な森林の利用について学び、考え、同世代に伝えたいメッセージをⅩ用の写真とテキストで作って発信しました。皆で持続可能な林業に向けた課題や、世界とのつながりについて理解し、「持続可能な商品づくりのために、生産地や企業、消費者が努力していること、すればさらによくなること」を議論して発表しました。

この約10年続くプロジェクトの中で、初年度に参加した高校生は20代後半となり、社会に影響力を持てるようになっています。ワークショップでの経験を活かしたプロジェクトが長い年月をかけて花開き、地球や社会、人々により良い影響を与えることに期待が膨らみます。このようにキリングループは、自社で完結する取り組みの枠を超え、取り組みそのものとその波及範囲を社会全体へと広げ、これからの世代を担う若者をはじめとする社会とともに未来を築いています。

本記事ではキリングループの「生の畏敬」という醸造哲学に基づいた、統合的アプローチによる環境再生型農業の事例や、長期的視点で規模を活かした再生エネルギーの取り組み、次世代をエンパワーメントして未来を築く活動について紹介しました。

それらは生態系やそこで生活を営む人々、地域コミュニティなど、すべてはつながり合って地球が成り立っているという、生命の根源に立脚した視座のもとで行われているのが特徴的です。だからこそキリングループの環境の取り組みは、国際的なイニシアチブの中で世界を牽引する存在として評価されているのでしょう。

今後もキリングループは、豊かな地球のめぐみを次の世代へつなぐ旗手として、ネットゼロ(脱炭素社会)、ネイチャーポジティブ(生物多様性の回復)、サーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に大きく貢献するに違いありません。

國府田淳

RIDE inc. Founder&Co-CEO及び、アクアポニックスやゼロウェイストなど先進的な環境の取り組みを行う、ベトナム・カンボジア・インド・日本・インドネシア(2024末オープン)で展開するピザレストラン「Pizza 4P's」の日本代表。リジェネラティブ レストランを謳う三つ星レストラン「レフェルヴェソンス」のインパクトレポートのディレクションや、Greenpeace Japan&環境省アンバサダー四角大輔、フェアトレード・ジャパン団体アンバサダー吉川ひなのなどのブランディングも手がける。Forbes Japanオフィシャルコラマーとして、主にサステナビリティやクリエイティブ、コンパッションに関する記事を執筆している。

※所属(内容)は掲載当時のものになります。

価値創造モデル

私たちキリングループは、新しい価値の創造を通じて社会課題を解決し、
「よろこびがつなぐ世界」を目指しています。

価値創造モデルは、キリングループの社会と価値を共創し持続的に成長するための仕組みであり、
持続的に循環することで事業成長と社会への価値提供が増幅していく構造を示しています。
この循環をより発展させ続けることで、お客様の幸せに貢献したいと考えています。