2016年4月より、キリンホールディングスの取締役会議長を務める社外取締役の有馬氏に、キリンのガバナンス体制について、率直なご意見をお聞きしました。
- Qキリンホールディングスのガバナンス体制をどのように評価されていますか。
- Aキリンホールディングスは、特にここ数年、ガバナンス体制を大幅に強化しています。社外取締役は、ボードメンバーの半数近くになりましたし、私自身、2016年から議長の大役を仰せつかっています。また、指名・報酬諮問委員会を一つに統合した一方で、単年度の事業計画達成のみならずその積み重ねによる中長期的な企業価値向上に向けてのインセンティブを高める方向に役員報酬体系を改善するなど、先進的なガバナンス体制へと進化させてきたと評価しています。
- Qその強化された体制はうまく機能しているのでしょうか。
- Aキリンホールディングスの良い面は、まさに、ガバナンスの実効性を高めようとする積極的な姿勢にあります。
例えば、社外取締役制度。コーポレートガバナンス・コードに準拠して形だけを整えようとしているのではない「本気度」を強く感じています。キリングループが持続的な成長を果たすためには、新たな価値創造やグローバル化をますます進める必要がありますが、そこには、様々なリスクも伴うわけで、そのリスクをミニマイズしながら成長を実現するために、社外の知見・様々な視点を吸収していくことがいかに大切であるかを熟知されています。
社外取締役が積極的にその役割を果たすためには、経営執行側の考えや現場の状況を十分に理解しておくことが必要ですので、2016年から新たに社外役員の勉強会や磯崎社長との合同ブリーフィングを設定していただきました。また、国内外の事業の現場をモニタリングできる機会を数多く設けていただいています。その効果もあって、社外取締役は、取締役会において活発に議論に参加し、社外取締役ならではの多様な視点が経営に取り入れられるケースが多くなっています。具体的には「取締役会の果たすべき機能」の整理や、M&A交渉、モニタリング等に反映されています。
- Q社外取締役としての時間が限られている中で、取締役会の運営を効率的に進めることが重要だと思うのですが、この点はいかがでしょうか。
- Aおっしゃる通りです。私は2016年に取締役会議長を引き受けて以来、ホールディングスの取締役会の運営の効率化について、磯崎社長とかなり踏み込んだ議論を行ってきました。
それ以前は、グループ傘下の個別の子会社に関するテーマにかなりの時間が割かれていたのですが、2017年から、そうしたテーマは可能な限り執行・事業会社に権限移譲し、キリンホールディングスとしてはグループワイドの大きな戦略視点での議論を深めるようになりました。
- Q有馬さんは、国連グローバル・コンパクトのボードメンバーでいらっしゃいます。そのお立場から、キリングループのCSV経営をどのようにご覧になっていますか。
- Aキリングループは、CSVを経営の根幹に位置付けたという意味で、日本の中では先駆者的な存在であると言えます。従来のCSRの枠を超えたシェアード・バリューやESGの概念をよく理解していると思います。何よりも評価できるのは、経営計画の策定にあたって、「健康」「地域社会」「環境」の3つの社会課題を出発点としているところ。そこから、グループ傘下の事業計画に落とし込んでいくプロセスはCSV経営そのものであると感じています。
今後の課題としては、そうした社会課題への取り組みを、社会的価値の向上はもちろんとして、それが経済的価値へどのように結実していくのかについても、しっかりと説明できることが重要です。「47都道府県の一番搾り」など、社会的価値と経済的価値の両立に向けた良い実例が着実に芽を出し始めていますが、さらにその取り組みを加速し、広げてほしいと思います。
また国連のSDGsについては、キリンはいち早く取り組みを開始しました。国連グローバル・コンパクトではSDGsを普及させるためのガイドブックとして産業別の「インダストリー・マトリックス」をつくり、数々のグローバル企業の実例を紹介しています。キリングループは、その翻訳版が公開される前から参照していますが、今後は是非、そのガイドブックで紹介されるような世界的なお手本企業へと飛躍されることを期待します。
- Q取締役会議長として、今後の抱負をお願いします。
- Aサッカーの例えを使えば、良いレフリーは、選手を主役としてリスペクトし、押し立てながら、質の高いゲームとなるようにしっかりとマネージします。私は、取締役会議長として、そのような存在でありたいと思います。
キリングループには、多くの強みがあります。その強みを最大限活かして、社会的価値の向上と経済的価値の向上を両立させ、価値創造主導の成長を実現してほしいと思っています。
私たち社外取締役はそれを側面支援するだけなく、監督機能もしっかりと果たしていきます。
経歴
社外取締役 有馬 利男
1967年 富士ゼロックス株式会社 入社
2002年 同社 代表取締役 社長
2006年 富士フイルムホールディングス株式会社 取締役
2011年 当社 社外取締役(現任)
2012年 富士ゼロックス株式会社 イグゼクティブ・アドバイザー(現任)