[食領域]
生きもの調査を通して遠野ホップ畑の里地里山の役割が見えてきました
- 環境
2015年11月30日
秋の調査では13科19種の鳥類と47科104種の昆虫類が確認できました。昆虫類は過去の調査の中で最も多くの種が確認でき、その中でも特に多かったのが、チョウ類、ハチ類の飛翔性の昆虫です。
これら飛翔性の昆虫が多く見られた理由は、ホップ畑の周辺にある下草や雑木林に昆虫が蜜を得る事のできる植物や、幼虫の食草となる植物が数多く生息していたためだと考えられます。
今回調査したホップ畑は山間部の傾斜地にあるため、畑と畑の間に段差を解消するための石垣が設けられています。この石垣周辺には、多様な植物が生えており、ここに生えているイヌタデの蜜を吸っているヤマトシジミや、石垣の隙間を住処として巣を作っているフタモンアシナガバチの姿も確認できました。
少しエリアを広げてホップ畑周辺の水辺や休耕作地の調査も行っています。
ホップ畑の脇を流れる小川の調査を行ったところ、トンボの幼虫であるヤゴやカワゲラなどの水生昆虫が確認できました。また、この小川では大きいものでは3~4cmまでに成長したオニヤンマのヤゴを多数、確認しています。
夏の調査でホップ畑の畝の間を餌場として周回する姿が確認できたオニヤンマですが、オニヤンマは流れのある綺麗な川でしか産卵しません。一方、夏場に確認されたノシメトンボ等のトンボ類は流れのない水辺に産卵するため、平野部の水田で育ち、餌を求めて山間部のホップ畑まで飛翔してきたのではないかと推測しています。
また、比較のために元々はホップ畑だった近隣の休耕作地の調査も行いましたが、あまり多くの生きものは観察されませんでした。休耕作地では、クズやヨモギなどの繁殖力の強い特定の植物が占有しており、植物の種類が少ないことがその要因だと考えられます。一方、ホップ畑では地面の乾燥を防ぐために敢えて下草を刈り取らずに残していますが、下草の背丈が高くなり過ぎると作業に支障が出るため年に何度か下草刈りを行います。この下草刈りによって繁殖力の強いクズやヨモギなどの生育が抑えられることで様々な植物が育ち、それが昆虫や鳥たちの多様性を育んでいると考えられます。
この様に3回の調査を通して予想以上に多くの生きものが確認できたことで、林、小川、水田といった日本の原風景である遠野の自然の中で、ホップ畑もまた里地里山のひとつの構成要素としての役割を果たしている姿が見えてきました。また、人の手が入ったホップ畑の方が手入れをしない休耕作地よりも生きものの多様性があることも分かりました。
遠野のホップ畑はビールの原料として人に恵みを与えるだけではなく、ホップを育てるために行っている農作業の様々な工夫が生きものの多様性を育み、遠野の里地里山としての保全にも繋がっていると言えそうです。
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