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経営成績および財政状態の報告・分析

「キリングループ2016年―2018年中期経営計画」(以下2016年中計)では、「構造改⾰による、キリングループの再⽣」実現の重要成果指標として、ROE15%以上および平準化EPS年平均成長率6%以上を定量目標としています。また、定量目標達成時の参考値(ガイダンス)を連結事業利益で示しており、単年度の利益計画達成を積み重ねることで3ヵ年の中計目標達成につなげるべく経営を進めています。
利益ガイダンスは、事業ごとに設定した2018年ガイド(医薬・バイオケミカル事業は2020年ガイド)およびコスト削減目標の達成を通じて計画達成を目指しています。各事業の収益性改善を通じた当期利益率向上によりROE目標を達成します。併せて、グループ本社のキリンホールディングスが資産流動化、事業ポートフォリオ最適化を推進し、3年間の目標である2,600億円以上のフリーキャッシュフロー創出を目指すこととしています。フリーキャッシュフローは、平準化EPSの30%以上の連結配当性向に基づき安定的な株主還元に充てるとともに、有利子負債返済に充当します。これにより財務柔軟性を向上させ、将来の成長投資に備えます。

2016年中期経営計画 ROE向上に向けた取り組み

2017年度の進捗

2016年中計2年目となる2017年度は、上記の中計方針に基づき経営を推進し、計画を上回る業績を上げることができました。各事業が2018年(または2020年)ガイド達成に向け順調に収益性を向上させるとともに、グループ全体でのコスト削減施策が着実に成果を上げ、連結事業利益は対前年123億円(6.8%)増益の1,943億円となりました。コスト削減の取り組みについては、2016年中計の目標300億円を1年前倒しで達成しました。また、低収益事業に位置づけたブラジルキリンの売却を決定し5月に株式譲渡を完了したほか、固定資産等の非中核資産流動化を推進したことにより、グループの構造改革は2016年中計策定当初の想定を上回るスピードで進捗しました。これらにより、2,849億円のフリーキャッシュフローを創出し、3年間のフリーキャッシュフロー創出目標を1年前倒しで達成しました。有利⼦負債返済も中計目標を大きく上回り、当期利益増加により資本の厚みが増し、財務柔軟性は⼗分なレベルに向上できたと考えます。

コスト削減の進捗(億円)

1)損益計算書

売上収益

酒税を含む連結売上収益は98億円(0.5%)増加し1兆8,637億円(酒税抜きでは164億円(1.1%)増加し1兆5,743億円)となりました。セグメント別の内訳では、日本綜合飲料が106億円減収、海外綜合飲料が201億円増収、医薬・バイオケミカルが53億円増収となりましたが、海外綜合飲料については為替による影響(+201億円)のほか、米国の清涼飲料子会社が近隣テリトリーの製造販売事業を譲り受けたことに伴う増収などが影響しました。
日本綜合飲料では、キリンビールがビール類の販売数量減少(△4.2%)により84億円の減収(酒税抜きでは10億円の減収)、キリンビバレッジが清涼飲料全体の販売数量減少(△2.2%)により68億円の減収となりました。 海外綜合飲料では、ライオンが89億円の減収となりました。ライオン酒類事業は、2016年9月に豪州におけるABIブランドのライセンス販売を終了したこと、ビール事業へ資源を集中するために豪州ワイン事業を売却したことなどにより販売数量が減少(△10.5%)し、連結為替影響+115億円を含め151億円の減収となりました。一方、ABIブランド喪失およびワイン事業売却の影響を除くと、現地通貨ベースで前年並みの売上収益を維持することができました。ライオン飲料事業は、オレンジ果汁価格高騰の影響による果汁飲料カテゴリーの販売数量減少が影響し全体の販売数量も減少(△3.0%)、連結為替影響+90億円を含め61億円の増収となりました。ミャンマー・ブルワリーは、販売数量の大幅な増加(+17.1%)に加え、前年度と今年度に実施した値上げ効果により、連結為替影響△18億円を含めても30億円の増収となりました。
医薬・バイオケミカルの協和発酵キリンは、医薬事業において海外技術収入の増加が大きく貢献し、53億円の増収となりました。

事業利益

連結事業利益は123億円増加し、増益率(6.8%)が増収率を上回ったことからグループ全体の収益性改善は順調に進んだと評価しています。対売上収益事業利益率は、2016年度の9.8%から10.4%に向上(酒税抜売上収益に対しては11.7%から12.3%に向上)しました。各事業の状況は次のとおりです。

■日本綜合飲料

キリンビールの事業利益は、6億円増益の716億円となりました。2017年1月にビール類の取引条件を見直し売上に連動する販売促進費を削減したことに伴い、主に量販チャネルにおいて競合他社商品よりも店頭価格が高い状態が5月末まで継続しました。6月には酒税法等が改正され店頭価格がさらに上昇、夏から秋にかけての天候不順等も影響し、ビール類販売数量は△4.2%となりました。これにより、ビール類の限界利益は77億円減少しましたが、RTDの販売数量増加(8.4%)およびノンアルコール・ビールテイスト飲料の販売数量増加(58.7%)による限界利益50億円増加と、品種構成差異等(ビール類の売上連動販売促進費低減による限界利益単価改善を含む)による限界利益33億円増加により、限界利益全体では6億円増加となりました。「一番搾り」リニューアル等により広告費が20億円増加しましたが、固定販売促進費が24億円減少(ビール類の取引条件見直しによる料飲チャネルに対する販売促進費削減を含む)したほか、コスト削減等により原材料費が26億円減少し、物流費その他費用の増加をカバーしました。対酒税抜売上収益事業利益率は19.2%となり、既に2018年ガイドである営業利益率(日本基準)17%を上回っています。
キリンビバレッジの事業利益は、44億円の大幅増益で217億円となりました。販売数量減少(△2.2%)による24億円の限界利益減少はありましたが、「午後の紅茶」「生茶」の販売数量増加により商品・容器構成差異等が改善し限界利益が30億円増加、全体として6億円の限界利益増加となりました。コスト削減効果により原材料費等が28億円減少するなど、事業利益率は、2018年ガイドである営業利益率(日本基準)3%を大きく上回る7.6%に向上しました。

■海外綜合飲料

ライオン酒類事業は、ABIブランド喪失により減益となりました。販売数量減少(△10.5%)による利益への影響は△122百万豪ドルとなりましたが、値上げおよび注力カテゴリーの販売数量増加による単価・ミックス改善、その他費用減少などにより77百万豪ドルの増益効果を出し、事業利益は51百万豪ドル減益の632百万豪ドルでした。ABIブランド喪失影響を除いた事業利益は前年並みを維持し、事業利益率は27.9%と高収益率を維持することができました。円換算後の事業利益は、為替影響+32億円により、9億円の減益に留まりました。
ライオン飲料事業は、オレンジ果汁価格高騰の影響がありましたが、2016年10月に実施した棚卸資産の評価減が前年度事業利益を押し下げたため、事業利益は結果として前年並みを維持しました。販売数量減少(△3.0%)による利益影響は△22百万豪ドルとなりましたが、注力カテゴリーの販売数量増加による単価・ミックス改善効果を含む+23百万豪ドルでカバーしました。連結為替影響+3億円を含め、円換算後の事業利益は5億円の増益となりました。
ミャンマー・ブルワリーの事業利益は、現地通貨ベースで18.3%の大幅増となりました。エコノミーカテゴリーの販売数量大幅増加により商品ミックスは悪化しましたが、販売数量増加および前年度と今年度に実施した値上げ効果に加え、コスト削減も効果を上げました。連結為替影響が△7億円となったため、円換算後の事業利益は9億円増加の99億円となりました。

■医薬・バイオケミカル

協和発酵キリンの事業利益は、107億円(20.9%)増加の622億円となりました。医薬事業において、海外での技術収入増加による売上総利益増加のほか、研究開発費の減少などにより、91億円増益しました。バイオケミカル事業は、収益性の高い売上構成比が上昇し、16億円の増益となりました。

親会社の所有者に帰属する当期利益

事業利益の増加に加え、サンミゲルビールの業績好調等によって持分法投資利益が96億円増加しました。また、低収益事業に位置づけたブラジルキリン売却、その他非中核資産の流動化を行ったことにより構造改革が当初想定以上のスピードで進捗しました。ブラジルキリン株式譲渡とこれに伴う税効果等により非継続事業からの当期利益が768億円増加し、当期利益は931億円の増益となりました。
構造改革進捗に伴う一時的な増益要因によって2017年度の当期利益率は13.0%まで到達しましたが、その影響を除いた各事業の収益性改善はほぼ2016年中計に沿った進捗と考えています。
なお、2017年度の税負担率は22.2%でした。これはIFRS適用に伴いのれん等が非償却となった影響、日本の法定実行税率の引き下げ、持分法投資利益の増加などによるもので、非継続事業からの当期利益に含まれるブラジルキリン売却に伴う税効果の影響はありません。

各事業における2018年・2020年ガイドの進捗

2)キャッシュフローの状況および財務戦略の進捗

各事業の収益性改善、ブラジルキリン売却および非中核資産流動化等の構造改革進捗により、営業キャッシュフローは2,217億円、投資キャッシュフローは+632億円となり、2,849億円のフリーキャッシュフローを創出しました。
株主還元(配当)については平準化EPSの30%以上の連結配当性向に基づき459億円、有利子負債返済については1,473億円を配分しました。これにより、2年間の有利子負債返済額は2,583億円となり、2016年中計の目標1,350億円を上回りました。2017年度末現在の有利子負債は4,865億円となりました。

3)財政状態計算書

資産

資産合計は237億円減少し、2兆3,991億円(前期末2兆4,228億円)となりました。国内のビール工場跡地その他の固定資産の売却などによって圧縮を進めたことに加え、100%子会社であったブラジルキリンの売却等によって有形固定資産が820億円減少しました。その影響もあって、非流動資産額が約1,200億円減少となりました。この中には、非流動資産に計上されていたキリン・アムジェン株式(持分法で会計処理されている投資)の譲渡によって流動資産へと振り替えられた分が400億円以上含まれています。なお、同株式は2018年第1四半期に譲渡されました。
設備投資額は859億円で、2016年度の899億円よりも抑えましたが、不要不急のものについても投資時期や金額を見直し、計画内に収めることができました。
なお、売上収益は、上述のとおり、対前年で98億円増加しましたが、日本基準を前提とした2016年中計の想定を下回ったため、資産回転率は0.77に留まっています。2017年度からIFRSを適用したことで売上に連動する販売促進費が売上控除となったことに伴う減少のほか、ブラジルキリン売却、ライオン酒類事業のABIブランド販売終了、国内ビール類の販売数量減少等が売上収益減少要因となりました。

資本および負債

収益性改善と構造改革の進捗により大幅に増加した当期利益2,421億円が貢献し、利益剰余金が増加、資本(非支配持分と自己株式を除く)は2,519億円増加の9,559億円(前期末7,040億円)となりました。
上述のとおり、資産の圧縮、有利子負債返済が2016年中計の目標を上回って進捗したことにより、財務レバレッジは2.9、D/Eレシオは0.51まで低下し(2015年度末1.14)、財務柔軟性が向上しました。

4)定量目標の進捗および株主還元

一時的要因を含め当期利益率が13.0%となったことにより、ROEは29.1%となりました。また、平準化EPSについては、非経常項目(ブラジルキリン株式譲渡による非継続事業からの当期利益、税金等調整後その他営業収益・費用等)を除く調整を行い、12円(8.6%)増加の151円となりました。
株主還元(配当)は、平準化EPSの連結配当性向30%以上に基づき、1株につき7円増配の46円となりました。これにより、2018年度のフリーキャッシュフローから540億円を配当に充当する見込みとなりますが、その他、キリン・アムジェン株式譲渡によるキャッシュインが見込まれることなどから、追加的株主還元として上限金額1,000億円により自己株式取得の実施を決定しました。

2018年度の見通し

2018年度は、営業キャッシュフローとして2,300億円を見込んでいます。これを投資キャッシュフロー、返済期限が到来する有利子負債の返済、上述の自己株式取得を含めた株主還元に充当していきます。
設備投資については2016年中計財務戦略に基づき、総額を抑制しつつ事業の位置づけに応じたメリハリある資源配分を行います。2018年は980億円の設備投資を予定していますが、キリン・アムジェン株式売却によるキャッシュインを含め投資キャッシュフローは+100億円、有利子負債返済は800億円、配当540億円および自己株式の取得1,000億円による株主還元1,540億円を見込んでいます。これによって、ROEは16.0%となる見込みです。
当期利益は、ブラジルキリン売却に伴い2017年度に増加した非継続事業からの当期利益が減少することにより減少する見込みですが、売上収益、事業利益とも、医薬・バイオケミカルにおける減少を他の事業の増加でカバーする計画となっています。引き続き、利益成長によるキャッシュ創出力を高めながら、資本コストと財務柔軟性のバランスを考慮した適切な資本構成を維持していく方針です。

今後のキャッシュ配分方針

2019年度以降のキャッシュ配分方針は次期中期経営計画の財務戦略で決定しますが、優先順位としては、第一に成長機会への投資とし、期限が到来した有利子負債返済に充てた上で、株主還元を行うこととします。
成長投資の対象は、将来の成長ドライバーとしていく「健康」領域のほか、継続して東南アジアにおける機会を探索していきます。なお、今後も投資実行は規律を持って判断します。
また、今後は、グループの持続的成長を支える無形資産である人材、ブランド、研究開発、サプライチェーン・ITへの投資を強化していきます。