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マネジメントディスカッション2CFOと社外監査役の対話

長期的な経営ビジョンのもと
適切な資本構成を維持しながら
積極的な成長投資を続けていきます

取締役常務執行役員(兼 キリン株式会社 常務執行役員)横田 乃里也&社外監査役 松田 千恵子

横田 乃里也
YOKOTA NORIYA
取締役常務執行役員
(兼 キリン株式会社 常務執行役員)

松田 千恵子
MATSUDA CHIEKO
社外監査役

キリングループの課題は何か、
これからの成長への道筋をどう描くのか?

松田  CFOは、単に財務の責任者というだけでなく、戦略遂行やグループガバナンスにおいて、資金調達、成長投資、資本政策などの重要な舵取りを担うポジションです。CFOの立場から現在のキリングループの課題をどのように捉えていますか?

横田  2016年中計の定量目標であるROE、平準化EPS成長率ともに達成の目処が立ってきました。収益性においては、当初設定した一定のゴールを達成できそうだというところまできています。フリーキャッシュフローの創出目標はすでに上回っており、有利子負債の返済も進みました。

2016-2017年 2年間でのキャッシュフロー進捗

一方、この2016年中計の基本方針は「構造改革による、キリングループの再生」であり、課題を1つずつ解決し、事業の収益性や財務面を何とか普通の水準にもってきた段階ともいえます。今、キリングループに最も問われているのは、得られたキャッシュをどのように成長につなげていくかということだと認識しています。

松田  形は整った、これからどうするのかというのが課題というわけですね。
キャッシュの使途については、大きな三本柱があると思います。まず、中長期的な、持続的な成長をどう実現していくのかということ。それから、これがCFOとして非常に重要な役割だと思うのですが、成長のためにどのような事業ポートフォリオで、どういった資源配分をしていくのかということ。最後は、保守本流の話になりますが、きちんと資金が回っていくようにしていくための財務をどうするのかということです。2016年中計では、特に事業ポートフォリオの変革を進めてきましたが、今後はどのような方針をお持ちでしょうか?

横田  これまでは、既存事業の資産効率を含めた収益性が一定水準に達しているか、達していなければどう再生するかに注力してきました。キリンビバレッジは事業利益率が7.6%まで改善しましたし、ブラジルキリンは売却を完了しました。
既存事業については、基本的にこの方針を継続しながらマネジメントしていくことになりますが、同時に新たな事業領域についても考えていかなければなりません。次期中期経営計画で明確にすべき課題であると考えています。

松田  投資家の立場からすれば、事業の多角化が進んだ企業グループよりも専業の方を選好しますので、結果としていわゆるコングロマリット・ディスカウントが懸念されることとなります。これを克服するには、グループ内の投資家であるCEOやCFOが、外部の投資家以上に厳しい規律をもって内部資本を管理していくのはもちろん、専業の企業では得られない事業間のシナジー効果を追求することが重要になります。

横田  おっしゃる通りです。特にシナジー効果の創出については、キリングループにはメーカーとしての豊富な技術やスキルの蓄積があるのが強みです。これまでもビール醸造で培った微生物の培養技術をベースに、抗体医薬品の開発・製造技術に発展させたり、アミノ酸の大量生産技術を医薬分野に応用したりするなど、事業間のシナジー効果を生み出してきました。今後もグループで蓄積してきた様々な技術、さらに社外の技術などを組み合わせることで、新しい価値を創出できると考えています。
現在、中長期的なビジョンと次期中期経営計画を議論しています。いかにして既存事業を強くしながら、グループとして蓄積してきた資産を活用してシナジー効果を創出していくか、事業間のシナジー効果による新規領域でどのような経済的価値・社会的価値を創り出していくかといったビジョンを示したいと思っています。

横田 乃里也 取締役常務執行役員(兼 キリン株式会社 常務執行役員)

松田  環境変化が激しければ激しいほど、企業は将来目指すべき目標をよりはっきりと示す必要があります。その意味では、まず長期的なビジョンをしっかりと描き、その目標に向かって足元の施策を1つひとつ実行していくことが大切だと思います。
ここで改めて、将来の成長のためにキャッシュをどのように配分していくのか。その方針をお聞かせください。

横田  キリングループはまだまだ成長できると思っていますので、何といっても「成長投資」を第一優先にしてキャッシュを配分していく方針です。成長投資というとM&Aによる事業取得が真っ先に頭に浮かびます。キリングループとしても優良なM&A案件は継続して探索していきますが、グローバル再編の進展で機会は限定的になってきていますので、投資判断に規律を効かせていくことが重要です。このような環境の中、キリングループが持続的に成長していくための戦略がCSVです。グループの強みとユニークな事業ポートフォリオによって経済的価値・社会的価値を創造していくために、それを支える無形資産、すなわち「人材」「ブランド」「研究開発」「サプライチェーン・IT」への投資を強化していく方針です。

松田  最近は投資家の方々も、経済的価値だけでなく、ESG領域への取り組みなど企業の社会的価値を重視するようになりました。キリンのCSV経営は、時代の先端を行く大変素晴らしい取り組みだと思いますが、一般的にはまだ馴染みのない概念だけに、うまく説明するのが難しいのではないですか。

横田  おっしゃる通りです。それだけに概念的な話だけでなく、「健康」「地域社会への貢献」「環境」という3つの社会課題に対してしっかり取り組んでいく姿勢や、社会課題への取り組みがどのように経済的価値に結び付くかなどについて、投資家の方々にご理解いただけるよう説明責任を果たすこともCFOとしての重要な役割であると考えています。

松田 重要な無形資産として4つ挙げられましたが、ビールや飲料といった嗜好性の高いビジネスでは、ブランド価値が競争力を大きく左右すると思います。どのようにブランドのバリューアップを図っていますか?

横田  重要なのは、マーケティング戦略の強化と徹底したPDCAによるブランド価値向上です。そのためにマーケティング部門の責任者として外部から経験豊富な人材を招聘するなど、積極的に新しいスキルの導入を進めてきました。その結果、戦略とプロセスが回りはじめ、「一番搾り」や「生茶」のように、着実に成果が上がりつつあります。

ERPや先進ITの導入を進め業務の効率化・高度化を追求

松田  今後のIT分野への投資戦略についてお聞かせください。

横田  国内事業においては、2020年1月を目指してERPパッケージソフトウェアを生産・物流・経理の領域に導入し、従来個別に構築・運用してきた多数の情報システムを統合します。これにより、システムのメンテナンスに要するコストや労力を軽減できるほか、これまで各システムに分散していた経営データを一元管理し、より有効に活用できるようになります。

松田  さらにERPの導入による業務標準化も期待できますね。

横田  はい。属人的な経験則やスキルに依存してきた要素を排除して、各部門の業務標準化を図り、効率化・省力化を促進していきたいと考えています。

松田  日本の企業にとって管理部門や営業部門の生産性向上は、今後、働き方改革を実現していく上でも重要な課題となっています。ERP導入と同時に業務プロセスそのものをもう一度見直してみることは、とても重要な取り組みですし、こうした改善の積み重ねが、将来、本社の競争力の差となって現れるのではないでしょうか。

横田  さらにERPだけでなく、ロボティクス・プロセス・オートメーション(RPA)による管理業務の自動化、製造部門におけるAIやIoTの活用といった、新しいテクノロジーの導入についても、費用対効果を考えながらチャレンジしています。

  • Enterprise Resources Planningの略称。販売、生産、人事、経理などの基幹情報を統合することで経営の効率化を図る概念およびそのシステムを指す

グローバルな人事交流・人材登用を推進し
多様性ある強い組織へと変革していく

松田 人材については、どのように強化・活性化を図っていく方針ですか?

横田  国内では人事制度の統一が進んでいることもあり、グループ共通の人材データベースの活用が可能になっています。ただし、個々の社員がどんなキャリアを歩んできたかなどの定型的な情報は把握できますが、そこでどんなスキルを身に付け、将来どのようなキャリアを目指しているのか、といったデータまではフォローできていません。より適材適所の人材活用を実現していくためにも、今後、データの質的な改善・充実を図っていきたいと考えています。

松田  海外の人材についてはいかがですか?

横田  データベースの連携はまだですが、グローバルでの人材交流は活発になっています。すでに製造やマーケティング、研究開発、IT部門など、機能別のカンファレンスを実施しており、財務などの管理部門でも開催する予定です。また、オーストラリアのライオンで、非常に面白いリーダーシップ開発の取り組みを進めているので、これを参考に日本でもリーダーシップ強化プログラムを開始しています。

松田 千恵子 社外監査役

松田  そうしたグローバルな人事交流や人材登用がさらに活発化していけば、将来、キリングループの組織風土も大きく変わっていくのではないでしょうか。

横田  はい。よりエンゲージメントの高い組織、多様な価値観を受け入れられる組織へと変革していきたいと考えています。

資本構成を勘案しながら安定的な株主還元に努める

松田  最後に資本構成と株主還元についての考え方をお聞かせください。

横田  2016年中計以前の2015年度はD/Eレシオが1倍程度まで膨らみましたが、2017年度末は0.51まで低下しました。キリングループが現在置かれているステージにおいては、資本コストを意識しながらも、この水準を維持していくことが適切と判断しています。連結配当性向は現在30%以上としていますが、今後については、事業戦略・投資戦略に基づいた財務戦略の中で決定します。もちろん、投資家の皆様のご意見も伺いながら検討していきます。

松田  今後も潤沢なキャッシュ創出が見込まれます。もちろん株主還元や有利子負債の返済も重要ですが、やはり将来の成長のための投資を最優先していく方針でしょうか。

横田  はい。厳しい経営環境ではありますが、CSV経営を実践し、お客様の期待や社会の要請に応え続けていくことで、キリングループの成長を実現していきたいと思います。そのためにも、しっかりとした規律のもとに、投資対効果の高い対象を厳選して資本を配分していきたいと考えています。

松田  CFOとしての目利き力が問われることになりますね。本日はありがとうございました。

配当額/連結配当性向

経歴

取締役常務執行役員(兼 キリン株式会社 常務執行役員)横田 乃里也

1984年、キリンビール入社。同社執行役員生産本部生産部長、キリンホールディングスグループ人事総務担当ディレクター、常務執行役員 グループ経営戦略担当ディレクターなどを経て、2018年、取締役常務執行役員に就任。

社外監査役 松田 千恵子

1987年に(株)日本長期信用銀行入行後、ムーディーズジャパン(株)、(株)コーポレイトディレクション、ブーズ・アンド・カンパニー(株)を経て、2016年より当社社外監査役。首都大学東京都市教養学部教授、同大学院社会科学研究科教授も務める。