不退転の覚悟でCSV経営を推進し
持続的な成長を実現していきます
磯崎 功典
ISOZAKI YOSHINORI
代表取締役社長
有馬 利男
ARIMA TOSHIO
社外取締役(取締役会議長)
磯崎 キリングループには、現在、酒類、飲料、医薬・バイオケミカルという3つのコア事業があります。特に、酒類や飲料は非常に安定した事業と考えられてきました。しかし、今のままで今後も長期的に成長を続けられるかといえば、決して楽観できない状況にあるのは明らかです。
有馬 少子高齢化や人口減少に伴って、国内の飲料市場は今後さらに成熟化していくのは間違いありません。さらに酒類の場合はアルコール関連問題も大きな制約となっています。
磯崎 実際、日本のビール市場は、1994年をピークに20年以上もマイナス成長が続いています。海外を見ても、欧米やオセアニアはもちろん、中国でも経済成長には陰りが見られるなど、主要マーケットの成熟化が進んでいます。一方、医薬事業も、特に国内では増大する医療費の抑制に向けた薬価引き下げなど逆風となる動きが強まってきています。
有馬 どちらの事業もかつてのような高成長は期待しにくい状況です。
磯崎 そのような厳しい環境下でキリングループが長期的な成長を遂げていくにはどうすればよいか――その重要な鍵を握るのが、2012年からグループ経営の根幹と位置づけて推進してきたCSV(Creating Shared Value:社会と共有できる価値の創造)です。環境変化に対応するという受け身の発想から、逆にそれを事業機会として捉えていくということです。
有馬 最近は、ESG投資、すなわち投資家が企業を評価する尺度として「環境」「社会」「ガバナンス」への取り組みを重視しようという考え方が急速に広がりつつあります。ROEをはじめとする経済的な成長だけでなく、投資家は企業が社会の課題にどのように取り組んでいるかも厳しくチェックしています。
磯崎 社会や環境、従業員といったステークホルダーとの間のトレードオフによって企業が経済的な果実を得ても、それに持続可能性はないという考え方なのだと思います。また、お客様も商品やサービスを選ぶ際に、品質や価格だけでなく、社会にとって良いものかどうかを重視するようになっています。
有馬 それだけに、キリンが日本企業としていち早くCSVのコンセプトを導入し、「酒類メーカーとしての責任」を前提に「健康」「地域社会への貢献」「環境」の3つを重点課題に定め、具体的な活動計画をグループの事業に落とし込んでいるのは高く評価できると思います。
磯崎 当社グループは、ビールをはじめとする酒類、飲料、医薬・バイオケミカルからなる世界でも類を見ないユニークな事業ポートフォリオを構築してきました。その過程で培ってきた技術とマーケティングの強みに経営資本をインプットして、キリンらしい商品・サービスの提供を通じて、社会的価値・経済的価値という確かなアウトカム(成果)に結び付けてこそ、初めて持続的な成長が可能になると考えています。
磯崎 2012年から進めてきたCSVですが、2017年は大きな前進がありました。2月に「CSVストーリー」「CSVコミットメント」を発表し、具体的な取り組みに落とし込みました。「健康」では、2016年に新設した事業創造部を中心に、プラズマ乳酸菌の新たな事業展開に取り組んでいます。また今後は、健康・未病領域でのセルフケアを支援する革新的な商品・サービスや新規事業の創造にも挑戦します。「地域社会への貢献」では、地域の方々とコンセプトづくりから一緒に行った「47都道府県の一番搾り」がありますが、そこで培ったネットワークを活かした活動や、クラフトビールへの岩手県遠野市の国産ホップの活用など、地域とWin-Winの関係が築ける活動に力を注いでいます。
有馬 先日、遠野のホップ農園を見学しましたが、農家の方の目の輝きが印象的でした。キリンがサポートを始めてから「ホップ栽培をやりたい」と弟子入りしてくる若い人が増えたそうです。こうした取り組みを広げて地域を元気にしていくことも大切ですね。
磯崎 海外でも、スリランカの紅茶農園におけるレインフォレスト・アライアンス認証取得の支援や地元小学校への図書寄付などを通じて、公正で安定的な原料調達を実現すると同時に、環境保全・持続可能性の追求と地域社会の発展に貢献しています。これら以外にも国連の「SDGs(持続可能な開発目標)」などを参照しながら、全部で16のCSVコミットメントを掲げています。
有馬 方向性に間違いはありませんから、今後、それぞれの取り組みを一層加速させていただきたいですね。既存事業の枠にとらわれない新しい事業を創造していくには、ドメインの壁や商慣習の壁など、いろいろな壁を壊していく必要があると思います。また、技術的なイノベーションだけでなく、ビジネスや社会のプロセス、仕組みの部分から変革していくような取り組みも必要ではないでしょうか。
磯崎 おっしゃる通り、いろいろな壁を壊したり、乗り越えたりしながら、社会課題の解決につながる変化をいかに創り出せるかが重要だと考えています。難しいチャレンジではありますが、“これをやり遂げない限りキリングループの持続的な成長はない”という不退転の覚悟で取り組んでいきます。約110年前に創業した時も、創業者たちは「おいしいビールを飲んで皆に元気になってほしい、社会を明るくしたい」という思いから、様々な壁を乗り越えてきたはずです。そんな創業の精神を忘れることなく、次の100年を見据えて新たな価値の創造に挑み続けていきます。
社外取締役(取締役会議長) 有馬 利男
1967年に富士ゼロックス(株)入社後、同社代表取締役社長、富士フイルムホールディングス(株)取締役などを歴任。2011年、当社社外取締役(現任)。2016年からは同取締役会議長に就任。国連グローバル・コンパクトのボードメンバーも務める。