COOメッセージ

2024年5月31日

3領域での経験を生かして
戦略を着実に実現し、成果を示す

キリンホールディングス株式会社
代表取締役社長COO
最高執行責任者
南方 健志

就任の思いと私のバックグラウンド

キリングループの変革を強いリーダーシップでけん引した磯崎氏から、このたび社長COOのバトンを受け取りました。当社グループは、食・医・ヘルスサイエンスの3領域でビジネスを展開しています。事業ポートフォリオ変革を進める上で、新たな柱であるヘルスサイエンス領域はもちろん、食領域、医領域の既存事業でもビジネスモデルの転換や新しい価値創造へのチャレンジが必要です。3領域での経験と知見がある私が先頭に立ち、長期経営構想キリングループ・ビジョン2027(KV2027)を実現していきます。社会的価値と経済的価値を創出するCSV経営を実践し、グローバルで存在意義が認められる企業グループとなるべく、強い覚悟で事業を成長させていきます。

私は1984年にキリンビールに入社しました。最初に取手工場へ配属されて以降、多くの工場でビール醸造に携わり、キリンヨーロッパやライオン(Lion)といった海外事業を経験した後、企画部長として国内の酒類・飲料事業の経営に携わりました。

2016年からは、ミャンマー・ブルワリーで社長を務めました。当時のミャンマーは民政化が進み、エネルギーみなぎる現地従業員と価値観を共有し、ビジョンを掲げ、組織のカルチャーを変えてワンチームで事業を成長させる喜びを経験しました。

2018年からは協和発酵バイオの社長として、品質問題の解決と組織の再生に、従業員と共に粘り強く取り組みました。2022年からはヘルスサイエンス事業本部長として、プラズマ乳酸菌事業の成長を推し進めました。豪州拠点のブラックモアズ(Blackmores)には2022年から何度も足を運び、ひざ詰め交渉で信頼を獲得し、2023年に買収を成功させました。今後は、アジア・パシフィック地域で最もプレゼンスの高い企業として成長戦略を実行していきます。

また、協和キリンの取締役として、専門性の高いビジネスに経営の当事者として携わることで同社のグローバル・スペシャリティファーマとしての成長をサポートしてきました。

振り返ると、生産現場での経験を長く歩んできたことで、「現場に行って、現物を見て、現実を知る」重要性を実感してきました。この三現主義が私の経営観の根幹となっています。

従業員のチャレンジを支え、新たなイノベーションを創出

私自身、食・医・ヘルスサイエンスの各領域に携わる中で見えた、当社グループの「強み」があります。100年以上前から継承してきた発酵・バイオテクノロジーを中心とした技術力と、長い歴史の中で受け継がれてきた品質や安全・安心に対するこだわり、お客様・患者さんに魅力ある商品やサービスを届けるマーケティング力、それらを徹底する誠実さです。酒類事業で培った発酵・バイオテクノロジーを応用した医薬事業は、参入から40年以上を経て当社グループの第2の柱となりました。第3の柱として育成するヘルスサイエンス事業も、このコア技術から生まれたのです。

また、当社グループには「常識を打ち破るものづくり」と「お客様・患者さん本位のチャレンジ」というDNAがあります。二番搾り麦汁を使用しない新製法の「一番搾り®」や、全く麦芽を使わずに造った「のどごし〈生〉」、患者さんにLife-changingな価値を創出する代表的な医薬品「クリースビータ」、免疫細胞の司令塔を活性化することを世界で初めて発見した「プラズマ乳酸菌」など、技術的なブレイクスルーによりイノベーションを生み出す瞬間に、何度も立ち会ってきました。そして、そうした中で生まれる「ものづくりは楽しい」「お客様・患者さんに喜んでいただけることがうれしい」という実感はどの事業領域のどの現場にも共通しており、さらなるチャレンジの原動力となっています。

翻って現状を見ると、当社グループのチャレンジは道半ばであり、より高みを目指す必要があると認識しています。酒類事業は、市場が縮小していく中、より深いお客様理解に基づき、付加価値の高い価値を提案していかなければ生き残れません。医薬事業もさらなるグローバル化とパイプラインの拡充が欠かせません。ヘルスサイエンス事業においても、常にイノベーションを創出するとともに、収益化を早期に実現しなければなりません。一つ一つの事業が自律的に成長し稼ぐ力を高めていけるよう、リードしサポートするのが私の役目です。

大切にしていること

戦略、内部プロセス、従業員のマインドと行動、この3つをつなげてぐるぐる回すことが経営の肝だと考えています。中でも特に重要なのが従業員のマインドと行動です。価値を生み出すのはバリューチェーンを構成する現場であり、最後は一人一人の実行力にかかっています。

それでは実行力はどうすれば上がるのかというと、ここには魔法の杖はありません。従業員の一人一人が自分事として高い志と熱い思いをもって、自分自身で考え、自ら行動するということに尽きます。その行動の総和がとても大きな力になります。ですから、経営の主役は従業員であり、会社を支えているのは現場と言えます。

組織運営を進める上での私の信念は「現場重視」です。数多くの現場でグループの仲間と取り組んできたものづくりの醍醐味や失敗経験が原点です。国内外問わずどこでも現場を歩き回り、直面する課題に一つ一つ向き合い、誠意をもって取り組むことに努めてきました。今年の入社式でも「Go to Gemba。現場に行こう」というメッセージを新入社員に伝えました。もし現場に何か阻害要因があるならそれを解き、必要に応じて内部プロセスも見直すことが経営の役割です。私自身の肌感も大切にしながら真の課題を見いだし、スピードを上げて対策を打ちます。

経営戦略を立てる上でも「現場起点」「お客様・患者さん起点」でなければいけません。現場にこそ、経営の課題とヒントが多くあると実感しています。情報があふれる現代ですが、本当に必要な情報は自分でつかまなくては手に入りません。現場に足を運び現実を知ることで、経営目標とのギャップを把握し、そこから戦略を組み立てていく。こうした双方向の経営の在り方を目指します。

人生のあらゆる場面で、人々の健康に貢献する

今後、当社グループは、人々の健康にさまざまな形で貢献することで持続的成長を果たしていきたいと考えています。お客様の人生のあらゆる場面で接点をもち、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)を高めることができるよう、食・医・ヘルスサイエンスの3領域で事業を行っていきます。

この戦略の方向性は固まりましたので、これからは実行し、成果を出すのみです。

食領域の酒類・飲料事業は、人と人のつながりをつくり、心と社会に前向きな力をつくり出す事業です。医領域では、病気に向き合う人々に笑顔をもたらす新たな薬やサービスを提供します。そしてヘルスサイエンス領域では、病気にかからないよう、免疫力をはじめとする土台の健康づくりと個別の健康課題の解決に貢献します。当社グループだからできる価値を提案し、社会に貢献することで企業として成長していきます。この3領域があるからこそ、私たちが目指すCSV経営が実現できるのです。

キリングループの課題と挑戦

  • 新規事業と既存事業を両立させ利益ある成長を実現

さて、2023年の当社グループは、取り組んできた事業ポートフォリオ経営の成果を過去最高の事業利益という形でお見せすることができました。一方で着手すべき課題も明らかとなっています。

キリンビールやライオンなどの酒類事業では、注力ブランドの成長とプレミアム化の推進、生産性の向上により持続的な成長を目指します。大命題としている「ブランド力向上」はまだ道半ばではありますが、良い兆しも見え始め、手応えを感じています。キリンビールではフラッグシップの「一番搾り®」に加えて、4月に発売した「キリンビール 晴れ風」が大変好調です。ライオンでも健康志向に応えた「Hahn」が大きく伸長しています。これらは重点ブランドに対する投資を集中した結果であり、今後も手を緩めずにより強いブランドを育てていきます。

キリンビバレッジやコーク・ノースイースト(Coke Northeast)などの飲料事業では、事業環境に対応した価格改定の実施、デジタル化や組織体制の最適化などにより、収益性向上を実現します。

医薬事業は「クリースビータ」などのグローバル戦略品の継続的な成長に加えて、さらなるパイプラインの拡充を図ります。今年1月にオーチャード(Orchard)の買収も完了しています。

このように既存事業の基盤を盤石にしながら、新規事業としてのヘルスサイエンス事業を成長軌道に乗せていきます。プラズマ乳酸菌事業は、グループの事業基盤である飲料、ヨーグルト、サプリメントへの活用を通じて、毎年順調に拡大成長できています。また、昨年買収したブラックモアズのPMIは非常に順調に進捗しており、グループの成長の推進力になることを期待しています。ヘルスサイエンス事業は今年はまだ先行投資期ですが、早期の黒字化を目指します。

今後も当社グループならではのユニークな事業ポートフォリオの資産や、当社グループの強みである研究開発、品質保証、マーケティングなどの本社機能を最大限活用し、企業価値を向上させます。

そして成長の実現を支えるのが人財です。「組織は人なり」で、人財こそが価値創造と競争優位の源泉となります。私の信念として申し上げた通り、従業員一人一人の力と意識を高めることが組織全体の力になり、中長期の成長につながります。KV2027の実現と、当社グループの持続的成長のため、最も重要な経営のテーマとして、人財に積極的に投資していきます。

人財マネジメントで一つの鍵が、現場力を引き出せるリーダーの存在です。組織の要となるポジションで戦略をしっかりと率先垂範で実行し、メンバーの力を引き出すリーダーをどう獲得、育成するか。組織の実態をつぶさに見てリーダーシップの発揮度を確認し、当社グループの中から、もしくは外部から、適材適所で人財を配置することも、COOである私の役割です。

また、多様性の推進も組織運営に欠かせません。私は直近まで務めていた協和キリンの取締役として、多様なバックグラウンドと高い専門性をもち寄った経営陣が協和キリンの急速なグローバル化を支えていることを実感しました。これは当社グループのあるべき姿であり、他の事業でも多様性を強みとする風土づくりを加速していきます。

食・医・ヘルスサイエンスの3つの事業領域を通じて社会に貢献していくこと、そして何より従業員がこのユニークな事業ポートフォリオでやりがいを感じ、ワクワクしながら仕事をしてもらうことが、私が成し遂げたいことです。そこから生まれるイノベーションを、社会からも評価していただくことが、当社グループの持続的な成長につながります。真の世界のCSV先進企業となるため、ステークホルダーの皆様とも対話を深め、必要なことはスピーディーに経営に反映させながら、新規事業と既存事業を両立させ、利益ある成長を実現していきます。