CEOメッセージ
2024年5月31日
CSV経営に磨きをかけ、
中⻑期の視点で企業価値最⼤化を図る
キリンホールディングス株式会社
代表取締役会⻑CEO
最⾼経営責任者
磯崎 功典
CSVを実現する事業ポートフォリオ経営で、過去最⾼の事業利益を達成
2023年もさまざまな環境変化が相次いで起こりました。地政学リスクが高まる不安定な国際情勢の中、原材料やエネルギー価格の高騰、世界的なインフレや大幅な為替変動が経営に影響を与えています。気候変動の影響による自然資本の喪失や感染症の発生リスクの高まりも強く懸念されています。新型コロナウイルス感染症の拡大はようやく落ち着きを見せましたが、人々の消費行動や働き方の多様化を促しました。また、デジタルICTの急速な進化は私たちの生活様式や仕事のやり方を大きく変化させています。
不確実性が高まる時代だからこそ、キリングループは経営の羅針盤として「Creating Shared Value(CSV)」を掲げています。社会が抱える課題をグループの強みで解決し、同時に企業としての経済価値を創出するCSV経営を通じて、企業価値の最大化を目指します。長期経営構想キリングループ・ビジョン2027(KV2027)で、私たちは「世界のCSV先進企業となる」ことを宣言しました。社会の変化を捉えたイノベーションによる市場創造の連続によって絶えず進化し、社会にポジティブインパクトを与えながら、持続的成長を実現すべきと考えています。
さて、業績面では2023年においては過去最高の事業利益を達成することができました。これは、私たちが「発酵・バイオテクノロジー」の強みを生かして、酒類・飲料事業、医薬事業、そしてヘルスサイエンス事業というユニークな事業ポートフォリオを展開し、厳しい環境変化にも柔軟に対応した成果であると考えております。
特に、医薬事業を担う協和キリンが大きな利益のけん引役となりました。振り返ると、当社グループは40年以上前から国内酒類市場の将来を見据え、遺伝子組み換えや発酵・バイオテクノロジーの強みを生かして医薬事業に参入しました。約10年間も利益が出なかったことから、当時は賛成する声ばかりではありませんでしたが、2008年に現在の協和キリンが発足し、今では当社グループの業績に大きく貢献するまで成長しました。酒類・飲料事業が盤石なうちに医薬事業を第2の柱として育成する、まさに「両利きの経営」の実現です。そして、医薬事業は、社会が抱える課題を解決すると同時に企業としての経済価値を創出する、CSV経営を体現するグループにとって大切な事業です。
また、当社グループは早くから海外進出に挑戦してきた歴史があります。現在のコーク・ノースイースト(Coke Northeast)に出資したのは40年以上前、豪州のライオン(Lion)やフィリピンのサンミゲルビールへの出資も20年ほど前のことです。そして、医薬事業も海外で成長しています。今ではグループの事業利益やEPSの半分以上を海外事業が占めており、グローバル化は今後ますます加速するものと思われます。国内の酒類事業だけにとどまらず、過去から事業の多角化や海外展開といった挑戦を重ねてきたからこそ、今日の結果があるのです。
企業価値を最大化する、最適な事業ポートフォリオを追求
当社グループが展開している酒類・飲料事業、医薬事業、そしてヘルスサイエンス事業は、それぞれビジネスのステージが異なり、短期と中長期の時間軸において果たす役割が異なります。
酒類・飲料事業は現在のグループ経営を支えていますが、主に成熟市場を対象としているため、人口減少や消費者の価値観の変化により市場が縮小していくことは以前より予測していました。だからこそ医薬事業にチャレンジし、ここまで成長させてきたのです。さらに今後の10年、20年先までの未来を見据えたときは、ヘルスサイエンス事業を第3の柱に育てていくことが、当社グループの成長をより確実にすると考えています。2023年に豪州のブラックモアズ(Blackmores)がグループに加わったことで、ヘルスサイエンス事業におけるジグソーパズルの大きなピースが埋まりました。これにより、日本のみならずアジア・パシフィックを中心としたグローバル市場での成長戦略を実行していく体制が整い、KV2027に向けた道筋をより具体化できたと思います。
ステージの異なる各事業に対して、適切に経営資源を配分することで、企業価値を最大化する最適な事業ポートフォリオを追求していきます。投資効率の観点からROIC 10%以上※を目指す財務規律を維持しつつ、中長期的な成長戦略を実現していくためのM&A投資や、無形資産への投資による組織能力の強化を実行していきます。
※ROEは15%程度を目安とする。
そして、グループの成長を実現するためには、戦略の実行を担う「人財」への投資が極めて重要です。当社グループは「人的資本経営」を実践し、経営環境の変化に対応できる高い専門性と、異なる視点や価値観を生かせる多様性を兼ね備えた人財の育成に注力します。特に、デジタルトランスフォーメーション(DX)を担う人財の獲得は待ったなしでありますが、最近は当社グループのCSV経営への共感が入社動機となり、デジタルの領域のみならず高い専門性をもった多様な人財が国籍を問わず集まるようになってきました。2013年にCSV経営を掲げ、これまで10年以上継続してきたことは、やはり間違いではなかったと確信しています。
新しい経営体制に移行し、実行力を高めていく
2015年から9年間、私がキリンホールディングス代表取締役社長を務めてまいりましたが、今後は新しい経営体制へ移行します。新たに代表取締役社長COOとして南方健志氏が就任し、私は代表取締役会長CEOとなることで、二人体制によるCSV経営を一層推進していきます。
CEOである私は、最高経営責任者としてグループ全体を俯瞰し、企業価値向上に取り組みます。特に、株主・投資家の皆様をはじめとするさまざまなステークホルダーとの対話を充実させ、戦略的パートナーとの関係をさらに深めていくことで、事業ポートフォリオ経営を進化させていきます。そしてCOOの南方氏は、最高執行責任者としてグループ各事業および本社の各機能を統括し、現場での実行力に焦点を当てて事業を磨き上げ、グループの「稼ぐ力」を高めていきます。
当社グループのCSV経営に磨きをかけ、社会課題の解決と同時に経済的価値として得られるキャッシュをさらなる成長に再投資することで、短期だけでなく中長期の視点で企業価値最大化を実現するサイクルをつくり出していきます。そして、社会のサステナビリティに貢献しつつ企業としての持続的成長を実現し、企業価値最大化に努めてまいります。
世界のCSV先進企業への歩みを進めていくことで、投資家の皆様の期待に応えていきます。今後も一層のご支援を賜りますようお願い申し上げます。