グループシナジーの
最大化を追求し
コングロマリット
プレミアムの実現を
社外監査役松田 千恵子
近年、多くの企業がコーポレートガバナンスに力を注いでいます。しかし、形式だけを整えても、取締役会や監査役会での議論が形骸化し、経営のモニタリングがうまく機能しなければ意味がありません。肝心なのはガバナンスの実効性をいかに高めるかにあります。キリンホールディングスの取締役会、監査役会では、毎回、私たち社外監査役、社外取締役もそれぞれの経験や専門分野に基づいて、率直、かつ活発な発言を行っています。経営の意思決定やモニタリングの場でそうした議論がなされているという点で、一定の実効性が確保されていると考えています。
また、監査役の場合には、監査という機会を通して事業の現場に足を運ぶ機会が多く、社外監査役としてもそこから多くの知見を得ています。キリンホールディングスでは、そうした監査義務のない社外取締役の方々ともご一緒に、監査役会の主催で工場などを視察する機会を設けていただいていますが、とても良いことだと思います。このように第三者の目で経営を監督する立場にある社外役員が、事業の現場を視察して、社員の声に耳を傾け、事業・業務への理解を深める機会を積極的につくってきたことも、実効性のあるガバナンスにつながっていると思います。
そしてもう1つ、ガバナンスの実効性を担保する上で欠かせないのが、ボードメンバーのダイバーシティです。昨今、ダイバーシティというと女性役員の登用などジェンダー部分だけが注目されがちですが、重要なのは、そうした形式要件だけでなく、知識や知見、経験、価値観といった内面のダイバーシティです。キリンホールディングスの社外取締役、社外監査役は、法曹界や官公庁出身者、企業経営者など、さまざまな分野をカバーできるバランスのとれたメンバー構成になっています。今後は、海外での事業展開も踏まえながら、国籍や民族などの多様性を確保することなども考えられるかもしれません。
キリングループは、2019年1月から新たな長期経営構想「KV2027」と「2019年−2021年中期経営計画(2019年中計)」をスタートさせました。その策定プロセスでは、取締役会などで長期経営構想の根幹となるCSV経営や、中期経営計画の成長シナリオなどについて盛んに議論が行われました。
こうした計画策定に関しては、社内で検討を進めてほぼ内容が固まってから社外役員に共有する企業も多いようですが、当社の場合は検討段階での議論が何度も行われました。このように社外役員の意見を聞く機会が数多く設けられたことは、経営の透明性・公正性を高めるというガバナンスの目的からも望ましい策定プロセスであったと思います。
2019年中計は「医と食をつなぐ事業」の立ち上げ・育成を大きな柱の1つとしています。その進捗に伴い、今後はグループの事業が一層多角化していくことになります。投資家目線で読み解くと、今回の中期経営計画の背景にあるテーマは「コングロマリットプレミアム」にあると考えています。そのためには、持株会社であるキリンホールディングスが最適な事業ポートフォリオマネジメントを実行し、資金や技術、人材、顧客基盤といったグループの経営資源を有効活用していくこと、そしてその中から事業会社でなければできない事業間のシナジーを最大化させていくことが必要になってきます。
事業ポートフォリオマネジメントの巧拙は、今や世界中の多角化企業にとって最重要の経営課題であり、投資家の大きな関心事ともなっています。持株会社であるキリンホールディングスには、まずはグループ内投資家として事業領域における投資のリスクとリターンを見極める能力に長けていること、かつ、事業会社間のシナジーの実現に向けて全社のベクトルを合わせることは、どうしても求められるのではないでしょうか。そして、それに加えて、キリングループであればCSVに代表されるような、グループアイデンティティをしっかりと確立していくことが何より重要かと思われます。それらを、能動的・積極的な対話により正しく伝えていくことで、株主をはじめとするステークホルダーからの信頼と支持が得られるのではないでしょうか。キリングループが社会からの期待に応えていけるよう、社外監査役としての務めを果たしていきたいと考えています。
社外監査役 松田 千恵子
1987年に(株)日本長期信用銀行入行後、ムーディーズジャパン(株)、(株)コーポレイトディレクション、ブーズ・アンド・カンパニー(株)を経て、2016年より当社社外監査役。首都大学東京経済経営学部教授、同大学院経営学研究科教授を務める。